第90話 猫ひねりインパクト
「あれは、どう考えても高すぎるだろ……」
放っておけば、ゲートへと変わりモンスターが現れる時空の綻びの赤い光。
今、窓越しに見えているそれは、遥か上空に見えた。
そう、この時、俺は手が届く位置にあるのであればと、無意識のうちに考えていたのだ。
しかし、当然手が届くはずもなく。
そして、その超巨大な時空の綻びは、これまでにないほどの速さで、ゲートへと変わってしまった。
発見した俺が何かを出来る余裕なんて、まったくない。
そうして上空に、これまた巨大な、モンスターが現れる。
それはやはり獣の姿をしていた。
それも、遠目にもはっきりと分かるぐらい、それは猫だった。
『モンスター:猫又
呼称:□□□□
所属:深淵の真なる暗黒の下僕の一。十三神獣、一席
スキル:立体機動、触手魔法、半神半獣、神速移動、危機察知、超越、□□□、□□□、状態異常完全耐性
状態:憤怒』
鑑定スキルが、現れた敵の神獣の情報の一部を開示してくれる。
その間にも、遥か上空に現れた巨大な二又の尾を持つ巨大な猫が、落下を始める。
空中でくるりと身をねじり、足を下にする神獣――猫又。
それが、俺のアパートの近くに落ちてくる。
衝撃。
「―うぉっ!」
その大型トラック並みの体の大きさとしては、軽やかな猫又の着地。
しかしそれでも周囲への着地により発生した衝撃波の被害は計り知れなかった。
俺のアパートの部屋の窓もビリビリと震えるとすべて割れて、飛び散ってくる。
その時だった。ドッペさんが俺の頭部からその体を大きく広げる。まるで巨大な傘のように広がるドッペさんの体。それが、ガラスの破片から俺を守ってくれていた。
「――驚いた……あ、ありがとう、ドッペさん。助かったよ……」
しかし被害はそれで済まなかった。
通り過ぎた衝撃波の影響で、俺の部屋の中の少ない家具が倒れてしまい、部屋はぐちゃぐちゃだった。
振り向いてそれを見た俺は、その惨状に、思わず怒りがこみ上げてくる。
このアパートの一室が、社会に居場所がなくなってしまい、自宅警備員として生きている俺の唯一の居場所なのだ。
そこをこうも簡単に、ただの着地の余波で無茶苦茶にされたのだ。
少々、血が頭にのぼるのも致し方ないことだろう。
ただそのせいで、倒れた冷蔵庫によって覗き穴で塞がれてしまっていることに、俺が気がつくのが遅くなってしまうこととなるのだった。




