第87話 新たなる眷属
ベベちゃん達の足元に横たわるアイカさんと先輩さん。二人がいるということは、どうやら覗き穴ガンマが空いた場所は深淵から見て、より地上に近い、浅い階層なのだと推測できる。
そして倒れているアイカさんたちなのだが、とりあえずは生きているようだった。
その生存を確認するため、俺はがっつりと覗き魔の眼球スキルを使用したまま、二人を覗き込んでしまっていた。
ベベちゃんの時跨ぎスキルの覚醒残り時間が順調に減っていて、かなり焦ってしまっていたのだ。
そんな訳で、二人の情報が奔流のように俺の左目に流れ込んでくる。それによると先輩さんの名前は凛子さんというらしい。ちゃんと名前のある方だった。
二人の年齢は――まあいいだろう。女性の年齢は言及すべき事柄ではない。
あとは、アイカさんは凛子さんが性的に大好きで、凛子さんは霊羅さんを愛しているいう、余り知らない方が良さそうな情報まで、流れ込んできた。
本当はそこで止めておくべきだったのだろう。二人には申し訳ないが、そういう訳にもいかなかった。
二人とも、敵の神獣による攻撃で状態異常を患っていたのだ。
それも、かなり重症っぽい。
アイカさんは『呪毒による四肢麻痺』、凛子さんは『感染性脳変異』という名の見たことも聞いたこともない状態異常だった。
そして俺が覗き魔の眼球でがっつりと二人を見てしまったせいなのだろう。
二人の魅了達成率が、100/100と出てしまっていた。
「――これ、俺の眷属に、しちゃった? ……え、人間だよ、いいのかこれ……て、やばいっ。綻びポイントをベベちゃんに使用!」
色々と衝撃的過ぎて、危うく、ベベちゃんの時跨ぎスキルの覚醒が終わる所だった。
俺が叫んだのがギリ、間に合ったようで、ベベちゃんの時跨ぎスキルの継続時間が無事、360/360sになる。
そんな感じで俺がワタワタしている間にも、覗き穴の先では、事態が急速に動いていた。
ベベちゃんは頭を一振して、角に刺さったヒヒイロサルを振り落とす。そちらはどうやら倒した様子だ。
それにしてもベベちゃんの覚醒中の強さは驚きだった。なにせ、敵の神獣を一突きなのだから。
ただ、それで終わりではない様子だ。
俺の覗きこむ、覗き穴ガンマからは見えにくいが、他にも何体も敵の神獣がいるようなのだ。
そしてその大部分が、ベベちゃん目掛けて押し寄せてくる。
明らかに、アビちゃんが危惧した敵がベベちゃんを狙っているという予想が的中した事態。
しかしベベちゃんは落ち着いたものだ。まるで自信は囮だとばかりに端然と押し寄せてくる敵の神獣たちを待ち構えている。
そこへ、横からアビちゃんを筆頭にして俺の他の眷属たちが、ベベちゃんへ向かう敵の横っぱらから攻撃を仕掛ける。
その攻撃はかなり効果的だったようだ。
敵の神獣たちが混乱した様子を見せる。
それを蹂躙するように、ベベちゃんが逞しく捻じれた一本の角を構えて、突進していく。
――どうなってるんだ、これは……そもそもアビちゃんたちは何で、神域を出てダンジョンの浅い層へきた?
そこで俺の頭に思い浮かぶのは、しばらくぶりに発生したスタンピードのことだった。
そこから連想できたこと。それは、敵の神獣たちが地上へ攻め入ろうとしたのを、アビちゃんたちが今まさに阻止しているのでは、という推測だった。
――でも、どうして……あ、もしかして俺が地上にいるから? え、俺が狙われているの? まさか、そんな……もしかして、審判スキルの許諾を出せるから?
さすがにそれは被害妄想な気がして、仕方ない。
しかし、そうでも考えないとアビちゃん達の行動の理由がつかないのだ。
俺は嫌な予感しかしないその考えは、いったん置いておくと、とりあえず新しく眷属となってしまったアイカさんと凛子さんを助けられないか、自分に出来ることを探すことにする。けっして現実逃避している訳ではないと、自分に言い聞かせながら。




