第85話 side とある探索者たち5
―――あ、あ……
唯一、明瞭に保たれていたはずのアイカの意識。しかし、その十一体に獣を目の前にして、完全に思考停止に陥っていた。
獣たちの異形の姿は、それだけで常人には恐ろしいほどだ。砂塵に見え隠れしながら進んでくるそれは、数こそ少ないものの、迫力は百鬼夜行と言っても何ら遜色ないほど。
だがこれでも、アイカも一流の探索者だ。
数多の見た目の恐ろしいモンスターと相対したきていた経験が、彼女にもある。
ただ、十一体の獣たちは、そんなアイカですら恐怖のどん底に陥るほどの存在だった。
何よりもアイカが恐ろしく感じたのは、獣たちの目。
非常に高い知性と、残忍さを感じさせる、目。それが獣たる体に宿っているのだ。
まるで高位の邪神が、ゴミクズを見るような瞳を、こちらに向けてくる。
気がつけばアイカの体を引っ張っていたロープが弛んでいた。
恐怖に見開かれたアイカの瞳。その視界の端に、ふらふらとこちらへ歩いてくる先輩の姿が映る。
その瞳はすでに正気を失ったかのように虚ろで、力なく開いた口からは、犬のようにだらんと舌が垂れ下がっていた。
――先輩っ! ああ、先輩……先輩も、何かやられたんだ……ああ……なんですぐさま、逃げてくれなかったの……
アイカに向けられたのとは明らかに別種の何らかの攻撃にさらされた様子の先輩。
その直視に耐えない痴態。
アイカを、恐怖と絶望が一体となった感情が襲う。
そうしているうちに、十一体の獣のうちの、巨大な緋色の猿のようなものが、特に残忍な光を瞳に宿して、アイカたちに腕を伸ばしてくる。
その猿の指が自分に触れた瞬間から、ただでは死ねないような時間が始まるのだと本能的に悟るアイカ。
ふらふらと近づいてきた先輩が、まるでアイカのことを守るかのように、アイカに覆い被さってくる。
それは最後かもしれない人の温かなぬくもり。
正気を失いながらも最後までそんなことをしてくる先輩の肩越しに、緋色の巨猿の指が近づくのをアイカが見ていた時だった。
ピクと巨猿の指が痙攣し、動きが止まる。
――え、何が……?
次の瞬間、巨大な一本の長い角のようなものが、突然、緋色の巨猿の脇腹から生える。
アイカが視線だけを横に移動する。
するとそこには、一角獣のごとき立派なねじれた角を生やしたベヒーモスらしき巨躯の存在が、姿を現すところだった。




