第80話 side 非公認眷属 霊羅ありす6
偉大なる視線のお方が、その尊き両手をもって、優雅にかしわ手をうっただけで、モンスター溢れるゲートが閉じた。
それはまさに前代未聞の出来事だった。
探索者としてそれなりにダンジョンに詳しいと自負している霊羅ありすから見ても、少なめに見積もって、それはまさに奇跡だった。
なにせ、これまでゲートが閉じた事など一度も無かったのだ。普通に考えて、世界がひっくり返る出来事だ。
――私は今、歴史の転換点を目撃した……ああ、それにしても、なんと神々しいお姿。眼福すぎる……
霊羅ありすは土下座したまま、顔を僅かに横に向けて目の端でその一連の流れを見るという、とても器用なことをしていた。
プラチナランク探索者として、常人では到底考えられない高い身体能力を、遺憾無くそんなことに発揮する霊羅ありす。
なにせ、この土下座の姿が今の霊羅ありすには一番落ち着く姿勢だったのだ。
まさかの敵を取り逃がしたばかりか、その敵が偉大なる視線のお方へ襲いかかるという、失態。
しっかりモンスターを倒すのが命題として下されていた霊羅ありすにとっては、それは自身の存在意義がなくなるほどの過失だった。
すぐさまジャンピング土下座からの後追い土下座移動で、誠心誠意、謝意を表明し続けてはいた。しかし、いまだ偉大なる視線のお方からのお許しは頂けていなかった。
それも当然だろう。
自身の犯した失態はそれほどに重いと、霊羅ありすは心の底より認識していた。
そんな罪人たる霊羅ありすに、偉大なる視線のお方はお許しをお与え下さるかわりに、そのご自身の偉大なる行いで、お示し下さった。
それが、霊羅ありすが討伐しきれず、敵を取り逃す失態の原因たるゲートを、かわりに御自らの御手をもってして、消し去って下さったこと。
その偉大なる視線のお方の行いは、霊羅ありすへの、新しい天啓となった。
モンスターを倒すことに汲々としていた霊羅ありす。一方、偉大なる視線のお方はかしわ手一つで、その根本的原因たるゲートを閉じれるのだ。
霊羅ありすの存在意義など、視線のお方の偉大さの前ではあって無いようなものに過ぎないのだと、痛感させられた。
そんな物に囚われていた自分を深く恥じると共に、霊羅ありすの新たなる命題がこのとき、自然と定まった。
それは偉大なる視線のお方の偉大なる行いを、その目に焼き付けるということ。
――矮小なる私の目の前で、偉大なる視線のお方はこれほどの奇跡をお示し下さった。これは、今後も矮小なる私がその奇跡を目撃するのをお許し下さったのだ。そうだ。そうに違いない……
霊羅ありすの恍惚とした蕩けそうな表情は、幸か不幸か、土下座の姿勢もあって端からは全く見えなかった。
そうしてこれまで以上に熱く熱く、燃え盛るような瞳を向ける霊羅ありすの目の前で、偉大なる視線のお方の次なる奇跡が起きようとしていた。
ゲートが消え、代わりに現れた大きな箱が、いまさに開けられようとしていたのだ。




