第8話 お土産を食べてみました
ごろんと部屋の真ん中に転がっている果物らしき物体。皮の色は黒っぽく、艶々とした光沢がある。
そしていっそう高らかに鳴り響く俺の腹の音。
その俺の左目には鑑定結果が表示されていた。
『深淵の果実:非常に美味な実。食したものに深淵の祝福を授ける』
『深淵の祝福0/10』
表示される鑑定の結果はそれだけだった。
『深淵の祝福0/10』というのは俺自身の体に目を向けると表示される文字だ。
まるで深淵の果実とやらを食べるのが規定路線かのような、鑑定の意図というか、示唆を感じる。
──毒とかはなさそう、なのか。とはいえ、なんかこのスキル、いまいち信用しきれないんだよな……
じーと深淵の果実を眺めながら、考える。
ただ、そうやってみているとだんだんと深淵の果実が美味しそうに見えてくる。
──はぁ、ただでさえ失業保険の給付は少ない上に、食料はバカ高いからな……
ダンジョン被害による不況、そしてインフレの波は確実に俺の日々の生活を蝕み続けているのだ。
そう気安く、買い物すらできないほどには。
それを考えれば、とりあえず目の前の果物を食べて一食、食費を浮かすというのは、とても魅惑的な案に思えてくる。
「──それに、せっかくアビちゃんが命がけで、とってきてくれたお土産だし」
そうやって、自分への言い訳を並べていく。
そのときには既に、俺の手は目の前の深淵の果実へと伸びていた。
そして両手の手のひらに伝わってくる、ずっしりとした重み。
とりあえず切ってみるかと、台所でまな板の上におこうとしたときだった。
なぜか、それだけでぱかっと二つに割れる深淵の果実。
割れた面から覗く果肉は一見、メロンのような見た目と色合いだった。
「──勝手に割れた……もしかして……」
二つの半球状になった深淵の果実の片方を再び両手で持ってみる。
軽く力を入れるだけで、半球状の深淵の果実が、四分球の形、二つに割れる。
「こんなに割れやすいのか……ダンジョン産のものって、不思議だ」
そんなことを考えていた俺の鼻を、甘い香りがくすぐる。
匂いもメロンのようだ。
もう、我慢できそうになかった。俺は覚悟を決め、そっと深淵の果実へと口をつけるのだった。
◇◆
「──旨かった」
味もほぼメロンだった。ただ、甘味は抑え目で、全くくどくない。一言で言えば、とても食べやすい味。
そのお陰と、空腹も相まって、結局まるまる一つをあっという間に食べきってしまっていた。
『深淵の祝福1/10』
発動したままの鑑定スキルが表示させている文字。
俺はどうやら順調に深淵の祝福とやらを得てしまったようだった。




