第7話 再び深淵を覗いてみました
少しだけ広さを取り戻し部屋に、俺のお腹がなる音が響く。
「そうだ、食べ物……」
結局、俺はあれからまだ何も食べていないのだ。
とりあえずアビちゃんの居場所も落ち着いたことだし、金銭的にはきついが、改めて食料の確保に向かおうかと思った時だった。
ほよんと角に張り付いていたアビちゃんが元の形に戻ると、元気に一回だけ跳ねる。
「え?」
そして俺が止める間もなく、アビちゃんはその体を細く細く伸ばすと、その先端を冷蔵庫の横にある、壁に空いている小さな穴へと押し込み始める。
そう、ダンジョンの深淵へと通じる穴だ。
そしてあっという間に、アビちゃんは穴を通って行ってしまった。
「あ──っ」
呆然とそれを眺めていた俺は慌てて壁に近づくと、屈みこんで顔を穴へと近づけ左目で覗き込む。
その視線の先では、アビちゃんがドラゴンが放つブレスを軽やかに、回避しているところだった。
『覗き魔の眼球スキル、発動中』
心配している俺の左目にそんな文字が映る。
その覗き魔の眼球スキルのお陰か、今回はドラゴンのブレスで目がチカチカしない。
そうしているうちに、アビちゃんの姿が視界から消えてしまう。俺が見えていた範囲ではドラゴンのブレスはすべて回避しきったように見えた。
「アビちゃん、いったいなんで……あ」
そこでようやく気がつく。
──俺が食べ物、と呟いたからだ。そうか、アビちゃんは食べ物を探しに……
その予想が正しかったのか、すぐさま俺の深淵を覗きこむ視界に再びドラゴンのブレスが輝き出す。
「アビちゃん!」
アビちゃんが戻ってきたのだ。
先ほどと同様、いや、より軽やかにドラゴンのブレスを回避するアビちゃん。
その姿が、俺の視界で急速に大きくなる。
どうやらこのままこっちに戻ってきそうだと俺は慌てて穴の空いた壁から離れる。
そのすぐあと、壁に空いた穴から細く細く体を伸ばしたアビちゃんが飛び出して来る。
俺は正面に現れたアビちゃんを抱き止める。
俺の腕のなかで、最初にみたときのような形へともどっていくアビちゃん。
その体は思ったよりもひんやりとしていて、ほどよい弾力があった。
「アビちゃん、心配したよ。なんで勝手に……」
そう言いかけた俺はすぐに口をつぐむ。
俺の腕のなかでアビちゃんの体がモゾモゾとうごめいたかと思った次の瞬間、何かがそこから飛び出してくる。
「──これは、くだもの? アビちゃん、ダンジョンには、これを取りに行ってくれたのかな? ……でも、いったいどうやって穴を……?」
どう考えても、壁の小さな穴を通らなそうなサイズ感の、アビちゃんの体から飛び出してきた果物らしきなにかが床に鎮座している。
その横へ、ほよんと俺の腕の中から飛び出すアビちゃん。それが返事とばかりに、そのまま定位置となった部屋の角にいくと、アビちゃんは細長くなって角に張り付いていく。
まるでそこが落ち着くとばかりだ。
俺はアビちゃんへの注意と、穴と果物のサイズ感の謎を質すタイミングをすっかり逸っしてしまう。
仕方なく、アビちゃんがとってきてくれた果物らしきものへと視線をむけ、鑑定スキルを使用するのだった。




