第9話 お約束をしてみました
アビちゃんがうちに来てから数日、俺はそれまでのやる気の出ない日々が嘘のように、体が軽かった。
そして今日は応募した企業の採用面接の日だった。
久しぶりのスーツに袖を通し、部屋を出る前にアビちゃんに話しかける。
「じゃあ、アビちゃん。行ってくるけど。お約束したように、勝手にダンジョンに入ったらダメだからね」
部屋の角から離れ、ほよんと一回跳ねてお返事をしてくれるアビちゃん。
どうやらアビちゃんは壁の穴からダンジョンの深淵にお散歩に行くのが気に入ってしまったようなのだ。
空腹の俺のために深淵の果実を取りに行って以来、暇があればアビちゃんは深淵に行っていた。そのせいか、アビちゃんも、称号とスキルを得てしまったほどだ。
もちろん、お散歩の度にアビちゃんは深淵の果実を筆頭に、お土産を持って帰って来てくれるので、家計的には多いに助かってはいる。
それでも、行き先はダンジョン。危険だって当然ある。
一度なんて、ドラゴンのブレスがかすったのだろう。体を端が、プスプスと燻った状態で戻って来たことすらあった。
そんなわけで、アビちゃんが散歩に行っている間は俺も気が気ではなくて、何度も何度も深淵を覗いては無事に帰ってくるのか心配している感じだった。
そういうこともあり、俺はアビちゃんとはいくつか、お約束をしていた。
一つ。俺の居ないときには勝手にダンジョンに入らないこと。
一つ。ダンジョンでは決して無理をせずに帰ってくること。
一つ、お土産は無理に手にいれなくてもいいこと。
などなどだ。
俺は出掛けるまえ、最後に鑑定スキルを使用してアビちゃんを見る。
『テイム済みモンスター:アビススライム
呼称:アビちゃん
称号:深淵を征く者、深淵竜と対峙せし者
スキル:高速移動、ブレス耐性』
最初に比べてさらに立派になったアビちゃんの鑑定結果が俺の左目に表示される。
──なんでアビちゃんは称号も格好いい感じで、スキルもまともそうなんだろうな……。
アビちゃんのスキル、高速移動はその名の通り速く移動出来るようだ。ブレス耐性は一度、ドラゴンのブレスを受けたときに称号とともに得たのだろう。
そして俺の鑑定スキルでは直接見られなかったが、あの深淵にいてブレスをいつも吐いているドラゴンは、深淵竜というまんまな名前のようだった。
──あーあ、俺なんて、こんなのなのに……
そのままスーツの袖から伸びた自分の手のひらを鑑定スキルで見る。
ひときわ目立つ、安定の覗き魔の眼球スキルの文字。
ただ、そのあとに追加された部分はアビちゃんの日々のお土産を食べ続けた結果だろう。
『深淵の祝福9/10』となっているのだった。




