第74話 なすべきこと
「俺も、今できることをしないと……」
ドッペさんのゼスチャーを読みといた俺は、いても立ってもいられない気持ちに駆られていた。
『審判』を実行し、神の王国とやらが完成するのは、たぶん深淵にいる敵の神獣たちや、その主らしき深淵の真なる暗黒さんにとって、とても不都合なのだろう。
アビちゃんが、大挙して攻めてくると想定するぐらいに、彼らには致命的なのだと推測できる。
とはいえ、神の王国を完成させるため鳴らされる天使のラッパは、災害を呼ぶ。
それがあと六回。この世界に、かなりの被害がもたらされる予感がする。
名もなき底辺市民な俺にとっては、職もなく、住みずらさが勝るような、こんな世界ではある。
付き合いのある人間の知り合いすら、最近ではほとんどいない。
それこそ、誰かと連絡先を交換するようなことをしたのも、先ほどの霊羅さんとのものが久しぶりだ。久しぶりすぎて、何年ぶりなのかも、わからないぐらい。
それでもだ。それでも、この世界が簡単に滅んでしまえとは到底、俺には思えなかった。
ただ、それも別に大層な理由ではない。何よりも俺が自分自身の手で世界を滅ぼすのが、恐ろしかったのだ。
しかし、もしもアビちゃんたち眷属の皆と、世界の滅亡を天秤にかけられてしまったら。今の俺なら、たぶんギリギリの選択にはなるが、アビちゃんたちを守ることを選ぶだろう。
だから、そんな選択肢を突きつけられる機会を回避するために、俺も全力を尽くさなければならない。
「──ドッペさん。また、綻び石を探すのを手伝ってくれる?」
俺の問いかけに、笑みを浮かべて、元気よくサムズアップして答えてくれるドッペさん。頼もしい。
神域を強化するための干渉に必要な綻びポイントは、支配領域の十倍の最低【10】から。そして、同じ項目をさらにもう一段階強化するなら、【40】ポイントが必要になる。
途方もない数の綻び石が必要だ。
しかし、やらなければならない。
俺が再びちらりと覗いた、覗き穴ベータの先では、ブラウニーちゃんたちとジェリーベヒーモスが、先ほどと変わることなく真摯に働き続けている。
その光景を目に焼きつける。
彼らの献身を。
彼らの働きを。
そうして、俺はドッペさんをつれて再び雹に覆われた世界へと踏み出したのだった。




