第70話 決断
「これは、やってしまったかもしれない……」
どれくらいそうやって床に座って呆けていただろうか。
「あっ! とりあえず、べべちゃんとブラウニーちゃんを、止めないと!」
はっと気を取り直すと、俺は慌てて覗き穴ベータのところへと戻る。
幸い、まだべべちゃんたちはそのままでいてくれた。
鑑定スキルで表示される文字列も変わっていない。
「発動だめっ! 許可しないっ!」
これで良いのか不安になりながらも、焦りぎみにそう叫ぶ。すると、鑑定スキルによる文字列がちゃんと変化する。
『審判の発動が保留されました。ジャッジメントベヒーモス及び六人の御使いは待機モードへと移行。『審判発動』のフレーズをもってして、随時、審判が開始されます』
表示された文字列に重なるように、べべちゃんとラッパを持った六人のブラウニーちゃんたちがお辞儀をすると奥へと下がっていく。
俺はそれを見届けて、ほっと息をつくと、後ろに倒れこむように再び床に座り込んでしまう。
とりあえずの危機は、脱したはずだ。
ただ、まったく安心は出来なかった。
俺は充電の切れたスマホに充電コードを差し込むと、ジリジリしながら起動するのをまつ。
そして、バッテリーが痛むのすら気にせず、俺は必死に調べ始める。
「第一のラッパ吹き、第一のラッパ吹き……雹と火?ああ、やっぱり──で、第二のが、海に──かぁ。はぁぁぁ。この外の雹って、どう考えても今回のことのせいだよな──」
検索結果は、まったく安心できないものだった。渦巻くような不安で、気持ちが乱れる。
なによりも不安なのは、俺が一言、例の台詞を呟くだけで世界が滅ぶかもしれないこと、だった。
審判のスキルの説明には、神の王国が完成するとあった気がしたが、それが何なのかも不明すぎた。
「──どうしよう、さすがにこれは誰かに相談したい……」
到底、一人では抱えきれないぐらい大きな不安。俺は、そんなことを呟いてしまう。
本当なら国防軍とかに通報するのが筋なのだろう。ただ、国防軍のイメージは、とかく良くない。
国防軍は何よりも利権の維持を第一にしていて、そのためにろくでもないことしか、しないのだ。
それに、通報するにしても、今さらだろう。
もし国防軍へ通報するのが、壁の穴を見つけてすぐなら、まだましだったはずだ。最悪でも、ここを追い出されて宿無しになるぐらいで済んだ可能性があるかもしれない。
それぐらい、俺のような名も無き底辺市民には、横暴な振る舞いをするのだ。
「と、なると……」
ぼーっと部屋を見回すと、まだ深淵に戻っていないドッペさんが部屋の隅にいた。
その姿が、いつの間にかアビちゃんから霊羅さんに変わっている。
「そう、だよね。話したことがあって……。俺が知るなかではもっともダンジョンに詳しそうで……。何よりもプラチナランクの探索者なんだから、頼りになりそう……。それに、何かの用事で、この近くにまだ、いてくれてるかもしれないし……」
俺はじっと霊羅さんの姿をしたドッペさんを見ながら、自分の考えを整理していく。
考えれば考えるほど、他に選択肢は無い気がしてきた。
こうして、俺は決意をこめて立ち上がると、雹に覆われた外の世界へと踏み出すのだった。




