第64話 準備万端になってました
「ただいまー」
俺が帰ると、そこにはアビちゃんと霊羅さんの姿のドッペさんがいた。すぐさまそれがドッペさんだとわかったが、じつは一瞬、ドキッとしていた。
帰りに通った時に、崩れた電信柱の陰に霊羅さん本人の姿がなかったのだ。なので、ほんの少しだけ、霊羅さんが俺の部屋に入ってきていたのかと、思ってしまった訳だ。
しかし、すぐさま冷静さを取り戻して平静な表情を作れた、はずだ。
たぶん、アビちゃんたちには気づかれてない。
そっとそちらを窺ってみる。
「──どうしたの、二人とも?」
アビちゃんとドッペさんの様子が違う意味で少しおかしい。
しきりに首を傾げる霊羅さん姿のドッペさん。
アビちゃんも、ふよふよとした体がドッペさんの真似をするように、左右に交互に傾いている。
「──ああ、俺だよ俺。この姿はそこの神域で寝たら若返っちゃってね。でも、もうすぐ戻るはず……うっ」
そんなことをアビちゃんたちに話していたら、急に体が重くなる。
いつもの不調が戻ってきた。
体が重く、軽く頭痛がする。肩と腰も少しだけ強ばっている。
ただ、そんないつもの俺の姿に戻ったからか、安心したように近づいてくるアビちゃんたち。
どうやら若返りで、警戒させてしまっていたようだ。
「ごめんごめん。にしてもアビちゃんたちが忙しそうじゃないの、久しぶりだよね。深淵の方は落ち着いたの?」
謝りながらアビちゃんをよしよししていると、それそれ、とばかりに体の一部を伸ばして覗き穴の方を指し示すアビちゃん。
どうやら俺に覗いてほしいらしい。それはまるで何かを作って親に見せたい子供のようだ。
俺は微笑ましい気持ちになりながら、言われるがままに覗き穴ベータを覗き込む。
「……おおっ、これはブラウニーちゃんたちかっ」
俺の支配領域にいたブラウニーちゃんたちが神域に移動していた。
それだけではなかった。
ブラウニー工房が神域に見える。
「え、すごい。もしかして工房も動かしたの?」
思わず覗き穴から目を離してふりかえる。
すると、アビちゃんとドッペさんが自慢そうだ。
アビちゃんはふるふると震えながら体を大きくし、ドッペさんも霊羅さんの姿で胸をはってのけぞっている。
アビちゃんがジェスチャーで体の一部を二ヶ所ほど上に伸ばしている。
「──角? ああ、べべ?ちゃんと、ベヒーモスズか! なるほどそれなら馬力はあるもんねー。そういや、べべちゃん達へ何か報いてあげれそう?」
言付けていたことを思い出してアビちゃんに尋ねる。
ほよんと一跳ねするアビちゃん。
その後ろではドッペさんも霊羅さんの姿でサムズアップしている。
それが合図だったかのように、神域に移設されてブラウニー工房から、わらわらとブラウニーちゃんたちが出てくる。
その手に、何かを持っているように見える。
そしてべべちゃんとベヒーモスズも、覗き穴の視界へと入ってくる。
どうやら、俺がべべちゃんたちに報いてあげてと言うのを予想して、眷属たちの準備は万端だったようだ。




