第63話 若返ったら耳も良くなっていました
新たに道の向こうから現れた、二人組。
そちらも顔を知っている人物。
前に、俺に焼き肉をたかってきた探索者と、そのお連れさんだったのだ。
名前はたしか──
「……アイカさんと、先輩さん」
思わず呟いてしまった俺の方を、アイカさんに先輩と呼ばれている女性探索者が、ちらりと見る。
俺の呟きはかなり小声で、距離もあったので聞こえていないはず、なのにだ。
勘が良いのだろう。
俺は慌てて顔をそらす。
幸い、アイカさんの方は霊羅さんに用があったようで、そちらへと駆け寄っていく。
先輩の探索者もそっちへ向かったので、俺はほっと胸を撫で下ろすと、不自然にならないように歩き続ける。
その俺の耳に、アイカさんと霊羅さんの会話の一部が届いてしまう。
どうも、若くなって耳も良くなってしまっているようだ。
「霊羅ありす様。探索者の──アイカと申します。──より召喚状をお届けに──」
「いま、忙しい。それに、査問委員会は終了したはずです」
「別件です。深淵にて、新たなる神じゅ──と──域が出現したとのこと。預言者──様より近々宣布がなされるとの──」
「今だ深淵にすらたどり着けないむりょくな私達がいかに協議しても、無駄でしょうに」
「しかし、現に──年ぶりのスタンピードが発生し、しかも──の原因の可能性を預言者──危惧──」
「私にはより重要な命題があります。この命よりも大切な。なので、その程度のことではここを離れる訳にはいかないのです」
「──、──」
途切れ途切れに聞こえる二人の会話。ただ、霊羅さんの声の方はなぜかとてもハッキリと聞こえてくる。どちらかと言えばアイカさんの方が声が大きいのに。
その二人の会話には興味深い単語がいくつもあった。
とはいえ、俺が意図したわけではないにしろ、盗み聞きしている感じになってしまっている。なので、俺はもっと聞いていたい好奇心を自制する。
そして、そのまま不自然にならない程度の速足で、霊羅さんたちから離れる方向に歩き続ける。
──やっぱり霊羅さんは、プラチナランクの探索者として忙しいんだろうな。命よりも大切な命題か……格好いい台詞。
スタンピードのモンスターの討伐に一人駆け去っていった、前に見た霊羅さんの後ろ姿。その勇姿を鮮明に思いだしながら、俺はその場を立ち去ると、一人気楽なお散歩の続きをするのだった。




