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覗き穴ダンジョン~自宅警備員の俺の部屋の壁にダンジョンの深淵を覗ける穴が空いた件  作者: 御手々ぽんた


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第62話 お見かけしました。

「ふぁー。……なんだ、これ?」


 爽やかな目覚め。

 まるで、雨上がりの新緑の中、たっぷりとした睡眠で全身の細胞が一新されたかのように、体が軽い。


 最近感じ始めていた、だるさや各種の細々とした不調を全てどこかへ捨て去ったかのように、体調がいいのだ。


 そう、まるで若返ったかのように。


「……え、もしかして……まるでじゃ、ない?」


 ふと触れた自分の顔の感触が、滑らかすぎる。

 俺は慌てて洗面所に向かうと、薄汚れた鏡をのぞきこむ。


「──うそ、だろ。本当に若返ってるよ……」


 汚れた鏡越しでもわかる。そこに映っているのは、どう見ても十代後半の俺の顔だった。


 慌ててシャツをまくれば、引き締まり、筋肉が軽く浮き出た腹部。よく見れば手の皮膚も、はりがある。


 これはどう考えても、若返りの原因は神域化した布団だろう。

 体に良いかな、ぐらいに考えていたら、とんでもなかった。


「鑑定──え、状態異常? いや、これはバフ、みたいなものなのか」


 鏡越しに映った俺自身の鑑定結果の文字列。

 現在の俺の若返りは、どうやら一種のバフ状態らしい。


「継続時間は、二時間、か」


 それは安堵ともに、少しだけ残念な気持ちを俺にもたらした。


 若返り全盛期の体調の良さを手に入れられるのは、俺ぐらいの年になってくると、とてもありがたい。


 その一方で二時間したら元に戻るのも、助かる。

 このまま若いまま、なんてことになったら、社会的にどうなることやらと、不安が募るばかりだったから。


「……せっかくだし、少しだけ外出してみようかな。二時間で元に戻るなら、それまでに戻ってくれば良いだろうし」


 俺はそう決めると、出かける準備をして、アビちゃんが置いていってくれたであろう朝食を手早く食べる。

 今日もとても美味しい。

 ただ、俺が少しだけ急いでいたからか、いつものように力が滾るような感覚は少なめだ。


 それだけ少し不思議に思いながらも、俺は食事を終えると、外へと出かけるのだった。


 ◆◇


 朝だからか、外にはちらほらと歩く人の姿があった。


 みな、出勤していくのだろう。くたびれた感じの、名も無き市民といった風情の人たちばかりだ。学生は見かけない。


 ここら辺はダンジョン災害で被害が結構あった地域なので、家族連れの居住者がほぼいないからだろう。


 前は俺も、あの通勤に向かう一員だった。それが、今ではなんの因果か、こうして若くなって、朝からぶらぶらと散歩しているのだ。

 なかなか不思議な気分だ。


「うーん。なんか朝の散歩って新鮮かも。あと、世界が鮮明に見える、ような?」


 歩く体がとても軽くてそれだけで心地よい。そして目に映る世界の輪郭が、くっきりとしている。


 たぶんこれも、この一時的な若返りバフの効果なのだろう。


 そのせいか、俺はそれに気がついてしまう。


「……あの電柱の陰にいるのは──」


 俺のアパートから少し離れた、崩れかけの電柱。そこに人影があったのだ。

 しかも、知っている人物だった。


「霊羅ありす、さん?」


 俺は心持ち距離を置くようにして、電柱のあるのと反対の端側を歩いていく。


 そうすると、その電柱の陰の人影がだんだんとはっきり見えてくる。

 間違いない。そこにいるのは、ドッペさんの姿として見慣れた、霊羅さんだった。


 ──あれ、向こうは俺に気がついてない? ああ、そうか。今の俺って若い姿だもんな。でもなんか、こうしてみると霊羅さん、印象が違うな……


 俺が最後に本人を見たのは、上空から舞い降りてきた美しくも獰猛な獣みたいな霊羅さんだった。

 内心に、孤高と哀しみを秘めながらも激烈で、一心にモンスターへと向かっていく。その姿を見るものが、苛烈な生きざまに憧れを抱かざるを得ないような、そんなイメージだったのだ。


 しかし、今、見えている霊羅さんは、その外見は変わりはないはずなのに、印象は全然、違うのだ。


 まるで、恋する乙女。

 もしくはとても敬虔な信徒のような、そんな不思議な印象を受ける。


 ──そうか。目が、違うんだ。


 獣のようだった瞳が、今ではしっとりと艶を帯びながらも、何か強い信念を得たかのように凛としているのだ。


 ──とりあえず、このまま通り過ぎよう


 俺には相変わらず気がついてないようなので、そのまま通りすぎることにする。それに、周囲を歩く名も無き市民の皆様も、霊羅さんのことはスルーしているのだ。まるで、これがいつもの光景だ、とばかりに。


 そのときだった。

 道の先から、これまた見たことのある顔の二人組がこちらへと向かって歩いてくるのが、見えた。

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