第60話 神域が出来てしまいました
「これかー。これがあるから、みんな、あんなにエルダーフェンリルの死骸を大事に守ってたのか……」
俺は思わず納得して独り言を呟いてしまう。
たぶん、俺の左目に映る文字列から察するに、神域とやらの作成には色々と条件があるのだろう。
その一つは当然、俺の眷属の誰かが神獣に進化しているということ。
そして、神獣が別の神獣の死骸を捧げないといけないとある。なので、こっちは推測だが、捧げる死骸は少なくとも持てるぐらいには、状態が良くないといけない気がする。
だから、べべちゃんたちはあんなにエルダーフェンリルの死骸を守っていたのだ。
アビちゃんたちが窒息死させて綺麗な状態の死骸を、敵に欠損されないようにしてくれていたのだろう。
つまり、エルダーフェンリルの死骸を綺麗なまま守り続けてくれたべべちゃんとベヒーモスズも、今回とても貢献してくれていたという訳だ。
俺はその事を心にしっかりと留め置く。
今すぐには何もしてあげれなくても、いつか機会があったときに、しっかりと報いてあげれるように。
「──それにしても、神域と支配領域ってどう違うんだろう? 少なくとも必要な綻びポイントが十倍に、神獣の死骸がいるとか超高コストなのは間違いないないけど……」
俺が悩んでいる間も、アビちゃんがエルダーフェンリルの死骸を捧げつづけている。
そして、重さよりも、スライムとしての体の作りの問題なのだろう。
ぷるぷる、ぷるぷるとアビちゃんの体が小刻みに揺れ続けているのだ。
それはとても可愛いのだが、必死に捧げる動作をしているようにも見えて、俺もあまり考え込んでアビちゃんを長く待たせるのが申し訳なくなってくる。
なので、わからないことだらけではあったが、それはそれとしてアビちゃんを解放してあげるためにも、俺は告げる。
「神域を、作成」
俺のその呟きを合図にして、アビちゃんの捧げていたエルダーフェンリルの死骸がふわりと宙に浮く。
そのまま、ダンジョンの中のはずなのに、上方から白い光がエルダーフェンリルの死骸へと降り注ぎ始める。すると、エルダーフェンリルの死骸が、光に溶けるように消えていく。
降り注ぐ光はそれでも止まらない。
そのまま光量を増して、俺の眷属達を呑み込み、さらに広がっていく。
俺が覗く覗き穴ベータから見える範囲はすべてその白い光に飲み込まれてしまった。
それだけではなかった。
覗き穴ベータから、光が一部、こちら側へと入り込んでくる。
「うわっ」
あまりの眩しさに、俺は思わずのけぞってしまう。
すると、白く神々しい光が冷蔵庫のある壁に空いた覗き穴ベータから、斜めに差し込む。のけぞり座り込んだ俺の頭上を越えて降り注ぐ光。
それは、俺が寝床にしている、たたんでおいた布団の脇、古びてくすんだ畳の一部へと当たる。
その光の当たった所に、変化が起きる。
「──えっ、ちょっ、まった!」
俺が思わず叫ぶも、畳の変化は止まらない。
変化している部分のサイズは、数センチ程度の円。その部分だけが、まるで新品の畳のようにキラキラと輝き始める。
そこで、ようやく降り注ぐ光が、止まる。
しかし畳の一部、数センチ程度の円のキラキラとした輝きは消えない。
どうやら、俺の部屋の中にも、小さな神域が出来てしまったようだった。




