第56話 進化してもらいました
「鑑定スキル! アビちゃんの進化先の候補はっ!」
気がつけば、俺は一人きりのアパートの部屋で、力の限り叫んでいた。
これまでの鑑定スキルの所業を考えると、微妙に悪意のある対応をされる可能性も当然あった。思うままに反応してくれないなんて、ざらだったから。
しかし、今回は意外なことに、素直に俺の左目に映る文字列が書き変わっていく。
『テイム済みモンスター:アビススライム
呼称:アビちゃん
進化候補:ハイアビススライム、アビススライムマジックナイト、スライムオリジン(神獣)
進化先を選択してください』
「でたっ! 鑑定スキル、それぞれの詳細をっ!」
気が急いて、さらに大きくなった俺の叫びが静かな室内に響き、そして何も起きずに消えていく。
部屋に一人きりで、ただ特大の大声を出した人になっている俺。
さすが、鑑定スキル。
油断させてからの落とし方に、やはり悪意しか感じない。
俺は逆に冷静になって、告げる。
「ハイアビススライムとはっ?」
今度は変化する文字列。
『ハイアビススライム:深淵の魔法を極めし高位のスライム。不定形モンスターのなかでは最も高い知性と品格を有する伝説の存在』
出たのはそれだけだ。
細かいスキルなどはわからないらしい。アビちゃんはエルダーフェンリルを倒した際に氷雪魔法を獲得していたので、その系統の進化っぽい。
今もレッサーアビススパイダー相手に、アビちゃんは氷雪魔法を放っている。
かなり効果は出ているようで、現状の数少ない有効打となっているように見える。
──氷雪魔法は強力だし、範囲も広い。虫系モンスターにも効果的だ。このハイアビススライムになることで、氷雪魔法が強化されるなら状況打破の大きな一手になるよな。
とはいえ、そう簡単に決めきれない。考えながらも次の候補を叫ぶ。
「アビススライムマジックナイトは?」
『アビススライムマジックナイト:人型をとれるようになったアビススライム。複数の武具と魔法を使いこなし、高い殲滅能力を誇る』
──魔法と武器を使える人型か。攻守ともにいける、万能タイプっぽい。これはちょっとよくわからないな……
汎用性は高そうだけど、これは無しかと思う。特にアビちゃんにわざわざ人型になってもらわなくても、問題ないというのもあった。
なので、最後の候補にして、最有力の候補を俺は叫ぶ。
「スライムオリジンはっ?」
『スライムオリジン:原初にして終焉のスライム』
「それ、だけ? え、まじか……」
何の参考にもならない。鑑定スキルさん、わざとかと疑いたくなる。
ここまで見てきた感じだと、明らかにハイアビススライムが最適解に思える。
現状、有効な攻撃をさらに強化ができそうなのだから。
とはいえ、それはレッサーアビススパイダーたちを相手にしたときの話だ。
レッサーアビススパイダーの背後には、いまだ悠然と控える、あれがいるのだ。
視線は通らないが明らかに存在を感じる。
神獣。
それも、エルダーフェンリルより格上であろう、十席。
──一か八か、だな。これは。
俺は視線をアビちゃんに戻す。
再度表示される、アビちゃんの情報。
そして俺は覚悟を決めて叫ぶ。
「アビちゃんを、進化。進化先を選択、スライムオリジンっ!!」
今日一の、俺の大声がアパートの部屋に響く。
そして、アビちゃんに「異変」が起きた。




