第55話 勘違いしてました
「戦ってるっ!?」
俺が思わず驚きの声を漏らすと、グッと肩を捕まれる。
「ドッペさん? わかった!」
その時にはすでにアビちゃんの姿に変わっていたドッペさんが、俺の横をすり抜けるようにして、覗き穴ベータを通って深淵へと向かう。
アビちゃんたちの応援に向かってくれたのだ。
俺は再び壁にはりつくと、左目を深淵へと向ける。
そこでは、エルダーフェンリルの死骸を守るように、俺の眷属たちがかたまりながら応戦していた。
その周囲を取り囲むのは、蜘蛛たちだった。
それも、巨大だ。一体がうちのベヒーモスズと同じくらいある。それらが攻撃を仕掛けてきている。
そして、それだけではなかった。
その巨大な蜘蛛達の背後。
俺の位置からだとギリギリ見えるかどうかといったところに、もうひとつ何かの影がある。
サイズは他の蜘蛛達よりは小さい。しかし、明らかにボスっぽい雰囲気。
蜘蛛としても多すぎるほどの脚と、無数の複眼がある蜘蛛。
それが、巨大な蜘蛛達の後ろに悠然と控えているのだ。
俺は覗き魔の眼球を発動させる。
エルダーフェンリルにしたように。
アビちゃん達のために、攻撃してきている巨大な蜘蛛達の行動を、邪魔する嫌がらせぐらいにはなるのでは、と思ったのだ。
──え……俺の視線を嫌がらない、だと!
俺の視線を向けても、微動だに反応しない蜘蛛たち。
しかし、逆にそのことで、一部、鑑定スキルが効果を発動する。
『モンスター:レッサーアビススパイダー
呼称:□□□□
所属:十三神獣、十席の眷属
スキル:立方起動、堅固堅牢、投網魔法、邪視耐性、□□□、□□□
邪視耐性スキルにより邪視魅了をレジスト中』
「俺の視線を嫌がらないのは、この邪視耐性スキルってやつの効果か……」
俺がどんなに蜘蛛達を見続けても、やはり魅了の数値は上がっていかなかった。
「それに神獣の、眷属……? てことは、奥にいた、今は見えなくなったボスっぽいやつが、神獣? エルダーフェンリルと同格か、それ以上ってことだよな……これ、不味くないか」
守りを固めた俺の眷属たちの元へ、ドッペさんが参戦する。
それでも、覗き続けている感じだと俺の眷属たちは、苦戦を続けているようだった。
──どうする……そうだ、綻び石! あれで俺の支配領域を作れば!
俺は外していたウロボロスリングを指にはめ直し、コンビニの袋に手を突っ込むと綻び石をポイントへ変えていく。
──急げ、急げっ
俺は改めて深淵を覗き込む。
『所有者が存在するアクセス不可領域です。システムへの干渉を実行できません。綻びポイント【12】』
「なんだ、と……エルダーフェンリルは倒したのに? ──あっ」
そこで気づいてしまう。
前に鑑定した時に見たが、エルダーフェンリル自体が「真なる暗黒」とかいう中二病、全開な名前の存在の配下だったのだ。
「ここはその真なる暗黒の支配領域なのか……」
たぶん、アビちゃんたちも気づいていなかったのだろう。
エルダーフェンリルを鑑定した結果を、俺がアビちゃんたちに伝えなかったのも良くなかったのだ。
「どうしよう……エルダーフェンリルの死骸をとりあえず捨てて、皆には撤退してもらう……でも、逃がしてくれるかな、あれ」
完全に包囲してきている蜘蛛たちは、戦意に満ち溢れているように見える。彼らから見たらエルダーフェンリルは仲間だったのかもしれない。
「アビちゃん、みんな……」
戦い続けている俺の眷属たち。
その時だった。ベヒーモスズの影に隠れていたアビちゃんの姿が、俺の目に映る。
発動したままの俺の鑑定スキル。
俺の左目に、文字列が表示される。
『テイム済みモンスター:アビススライム
呼称:アビちゃん
称号:深淵を征く者、深淵竜と対峙せし者、神獣を屠りし者
スキル:高速移動、ブレス耐性、氷雪魔法、嗅覚探査
'進化可能'』
進化可能の文字が、俺の目に飛び込んできた。




