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覗き穴ダンジョン~自宅警備員の俺の部屋の壁にダンジョンの深淵を覗ける穴が空いた件  作者: 御手々ぽんた


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第53話 side非公認眷属 霊羅ありす5

「視線のお方っ! ああ、今日もなんと神々しい、お姿……」


 傾き崩れかけた電信柱の後ろに、身を潜めた霊羅ありす。高い身体能力ゆえに、そんな遮蔽物でも、完璧に溶け込み擬態に成功していた。


 そんな彼女は、崇拝の対象であり、自らの新たなる人生の最優先存在たる、視線の方がアパートのドアから姿を現したところを、歓喜しながら眺めているところだった。


 つい先日、ヒトクちゃんを限界まで行使したせいで、大規模な停電まで発生させてしまった霊羅ありす。普通であれば、よくて拘束され、その行いの責を問われてもおかしくない行いだ。


 しかし、今こうして自由に動いていることからもわかる通り、その一連の彼女の行いは全て不問になっていた。


 というのも、それほどまでに、彼女──深淵の滴に触れし祝福の魔女、プラチナランク探索者たる霊羅ありすの、人類への功績は高く評価され、信頼を獲得していたのだ。


 そんな彼女が一言、ヒトクちゃんの行使は深淵に関する重要な事象への対応だと査問委員会で答えるだけで、その行いは全て肯定され、今後の対応についても全権を任されるほどだった。


 そんな訳で、全権を手にした霊羅ありすは、一人、大手をふるってこのアパートを望む電信柱に意気揚々と張り付いているのだ。


 ただまあ、たまたまではあるが、霊羅ありすの査問委員会での言葉は一切、誇張も間違いもなかった。


 ヒトクちゃんを稼働させる過程で、霊羅ありすは今、ちょうど外へと出てこられた視線のお方が、どれほど深淵に近しい存在なのか、かなり深いところまで正確に把握しつつあった。


 そんな訳で、その一挙一動を見逃さないよう、しかし、かの方より下された命題──視線のお方は何者でもない──により視線のお方を直視しないようにしていた。


 具体的には、目を半眼にして、薄目で見ているのだ。

 そのため、電信柱に潜む霊羅ありすの喜びに満ち溢れた顔は、端から見ると、だいぶ変顔になっていた。


 その変顔にさらに、驚きが加わる。


「あとから現れたあれは、私? ああ、視線のお方の眷属の、ドッペルゲンガーですか。うーん、それにしてもあの服は、なかなか素晴らしい着こなし……」


 霊羅ありすが持っている服と同じワンピースを身にまとったドッペルゲンガーを眺めていた変顔状態の霊羅ありす。それが、電信柱の後ろで急にくねくねとしだす。


「……あの装いはもしかして、視線のお方が、手ずから整えてくださった可能性が、あるのでは──っ!」


 視線のお方へ、すでにその心の全てを捧げている霊羅ありすにとって、その想像は福音のように視線のお方一色に染まった脳内に響く。


 偽物とはいえ、自らと瓜二つの肉体を持つであろう存在を視線のお方が身近に侍らせ、あまつさえその身を整えるのに手を煩わせてくれたかもしれない、というなんの根拠もない妄想。


 ──もう、これは私の心だけでなく、身も全てを捧げたに等しいではありませんか……


 加速する妄想。身を潜めているのに、どんどんと挙動不審になっていく霊羅ありす。

 自らに課せられた命題すらも一瞬、忘れ去り、その熱を帯びた瞳が、視線な方をガッツリと捉えてしまう。


「──ああ、いけないいけない。直視するなんて、なんてはしたないことでしょう」


 すぐさま視線をそらしたことで、霊羅ありすは視線のお方がぶるっと大きく身震いしたところを、たまたま見逃してしまう。


 霊羅ありすは自身のぶしつけな視線を反省し、改めて薄目で眺めていると、次の瞬間、自分の偽物と視線のお方が腕を組んで歩き出す姿が飛び込んでくる。


 そのあまりの衝撃的な光景に、すでに限界が近かった霊羅ありすは、思わず腰が抜けてしまう。

 信じられないほどに腑抜けた笑顔を浮かべて座り込んでしまったことで、霊羅ありすは二人が時空の綻びへと向かうのを追うのに、あえなく失敗してしまったのだった。

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