第52話 嗅覚探査を使ってもらいました
「ドッペさん、その格好は……」
べべちゃん達に、いつまでもエルダーフェンリルの死骸を守らせている訳にはいかないと、俺が急いで綻び石を探しにいくことにした、矢先のことだった。
俺はアパートを出たところで霊羅さんの姿をしたドッペさんの装いをみて、思わず固まってしまう。
こてんと、俺の言葉に可愛らしく首をかしげるドッペさん。
その仕草は、苛烈そうな霊羅さんのイメージには、全くそぐわない。しかし、そもそもの霊羅さんの見た目はとても美しいので、その身にまとう服装と相まって、ギャップがひどい。
そう、俺が指摘したのは、ドッペさんが霊羅さんの姿で着ている、その服装についてだった。
これまで霊羅さんの姿の時は、基本的には探索者の装備をまとった姿だったのだ。
しかし、いまは明らかに私服の装い。
それもワンピース系のどこか清楚で可愛らしい服装。
まるで、これから二人でデートにでも出かけるかのような服装なのだ。
この服装は、ドッペさんが何かを参考にした作り出したものなのか。
はたまた、あり得ないとは思うが、実際にあの霊羅さんが持っている服のうちの一式なのか。
そんな少しだけ失礼なことを考えていると、何故かぶるっと悪寒が走る。
本能的に俺が慌てて考えるのをやめると、可愛らしい霊羅さんの姿をしたドッペさんが人差し指でとんとんと自分の鼻を叩いていた。
それすらも、いつもの獰猛さが薄れて、可愛らしい。
──あ、でもこれ、中身がドッペさんだもんな。なら可愛くても、おかしくないか。おかしくないな。うん。おかしくない。って、このドッペさんの仕草は、嗅覚探査をするからって、ことだよね
俺はそう自分を納得させるとドッペさんへ質問をする。
「嗅覚探査だね。じゃあ、アビちゃんの姿を考える。ちなみに、嗅覚探査ってどれくらい時間が必要?」
俺が質問をしたのは、街中でドッペさんにアビちゃんの姿をしてもらう時間がどれくらい必要か確認したかったからだ。
もし嗅覚探査に時間がかかるなら、出来るだけ人気のない場所を毎回探す必要があるだろう、と思ったのだ。
俺の質問に、両手を広げるとゆっくりと近づけていって、最後に手のひらがギリギリ触れないまで近づけるドッペさん。
「一瞬でいいってこと?」
片目をつぶり片手の親指を立てて前に出してくる。ドッペさん。
どうやら一瞬でいいらしい。
「それなら──」
俺はものは試しとばかりに一瞬だけアビちゃんのことを考えてすぐに霊羅さんのことを思い直す。
すると、一瞬だけ、ドッペさんが変化している霊羅さんの顔から色が消えて、透明になりかけたところですぐに戻る。よほど注視していないと見逃してしまうほどに、素早い変化だった。
「これで、わかった?」
俺の質問に再び親指を立てて差し出してくるドッペさん。わかったらしい。
そのまま、大きく片方の腕を伸ばしてある方角を示すと、ドッペさんは反対の腕を俺の腕に絡ませるようにして歩き出す。
どうやら、本当にあの一瞬で嗅覚探査によって時空の綻びの場所がわかったみたいだ。
俺は腕を引っ張られるようにして、歩き出したドッペさんに足並みを揃えると、時空の綻びへ向かって移動を開始したのだった。




