第51話 アビちゃんに提案されてみました
「神獣、か」
これはたぶんエルダーフェンリルを死ぬ間際に鑑定した時にみた、十三神獣、とやらのことだろう。
──エルダーフェンリルが十三神獣とやらの一柱で、それをアビちゃんたちが倒したから神獣の枠が空いたと。で、俺の眷属の誰かをその神獣とやらに一体だけ進化出来る、のかな。そもそも、神獣ってなんだ?
俺はダメもとで鑑定スキルに向けて呟いてみる。
「『神獣』……」
一人きりの狭いアパートに、静かに俺の呟きが響く。
当然、俺の左目に表示された文字列は変化しない。
「くっ、わかってた。わかってたけど……。鑑定スキルに辱しめられた気分──」
俺がじわじわと恥ずかしくなっていると、覗き穴ベータからアビちゃんとドッペさんが出てくる。
「おお、二人とも、激戦だったね。お疲れ様!」
空虚に感じられていた俺のアパートの部屋が二人の存在があるだけで一気に賑やかになる。
少しだけ狭いが。
そんなことを俺が思ったせいか、ドッペさんが霊羅さんの姿に変わる。
なんだか申し訳ない。
「あ、そうだ。向こうの様子は?」
俺が尋ねると、アビちゃんが体の一部を伸ばして、俺の左手に軽くとんとんと触れる。
正確には、俺の指にはまったウロボロスリングを、だ。
アビちゃんが、その体の一部を次に覗き穴ベータへ向ける。
「あー、綻びポイントで支配領域を作ってほしいのかな……」
俺はそう呟きながら覗き穴ベータを覗き込む。
深淵側では吹雪いてた雪がやみ、一面を覆いっていた氷も大部分が融けた様子。
その中央付近でエルダーフェンリルの死骸を取り囲むようにベヒーモスズとべべちゃんたちがいた。たぶん、エルダーフェンリルの死骸を守ってくれているのだろう。
「──なるほど、これは早急に綻び石を探してきた方が良さそうだね……」
残念なことに、ブラウニー工房を開設して最後の綻びポイントを使ってしまってから、まだ綻び石を見つけられてないのだ。
──この前探しにアパートを出たときはとんでもない目にあって、それどころではなくなってしまったしな。でも、たぶんもう、うちの近くには無いだろうから、遠出をしないと。
俺がどうしたものかと悩んでいると、とんとんと後ろから肩を叩かれる。
「うん、次はどうしたの、アビちゃん?」
伸ばした体の一部を自分自身に向けているアビちゃん。
「──鑑定?」
俺の問いに、アビちゃんがふよんと一回跳ねる。
「おっけー。鑑定スキル」
『テイム済みモンスター:アビススライム
呼称:アビちゃん
称号:深淵を征く者、深淵竜と対峙せし者、神獣を屠りし者
スキル:高速移動、ブレス耐性、氷雪魔法、嗅覚探査
'進化可能'』
アビちゃんの状態が表示される。
「おおっ、格好いい称号が増えてる。それに、スキルも二つも! すごいねー。これはエルダーフェンリルを倒したから、かな。氷雪魔法って確かエルダーフェンリルのスキルだったもんね。嗅覚探査ってのも、きっとそう──」
俺がそう話したところで、ふよんと一つ跳ねるアビちゃん。
「……嗅覚探査?」
また、アビちゃんが一跳ねする。
「──もしかして、嗅覚探査で時空の綻びを探せる?」
俺の問いに、ひときわ大きく、アビちゃんが跳ねる。
そして、次にアビちゃんがまた体の一部を伸ばして自分を指したあとに、ちょこんと座って待っている霊羅さん姿のドッペさんを指し示す。
「……ドッペさんも、アビちゃんの姿の時は嗅覚探査が使えるってこと?」
再び一跳ねするアビちゃん。そして、こくこくと頷くドッペさん。
どうやら、アビちゃんは時空の綻びを探しに、ドッペさんを連れてったらと、俺に提案してくれているようだった。




