第49話 応援してみました
俺はどれ程の間、深淵を覗き込み続けたろうか。
スキルを使用しながら、片時も目を離さずに覗き穴ベータへと視線を向け続けた俺の左目。
その左目はすっかり熱を帯びて、腫れぼったい感じがする。それに、眼精疲労のせいか、ズキズキと頭も痛い。
それでも、俺の嫌がらせのような視線は、確実にフェンリルの妨害になっているようだった。
これだけ見続けていると、視界に完全には捉えきれなくても、だんだんとフェンリルのことが理解出来てくる。
その動きの癖。
攻守の切り替わりのタイミング。
そして、俺の視線を特に嫌がるポイント。
なにせ、フェンリルは絶対に俺の覗く目の方に、視線を向けようとはしなかったのだ。
俺と目を合わせるのが、一番不味いと思っているかのように。
──なんか、ガンつけているヤンキーのような気分になってくるよな。いたた。
俺は眼精疲労で痛む頭で、そんな愚にもつかないことを考える。
その時だった。
長かったアビちゃんたちと、フェンリルとの戦いの均衡が、ついに破れる。
ベヒーモスズのうちの一体が放った竜巻。それが、俺の視線を避けようと一瞬だけ脚を止めたフェンリルの、前脚を捉えたのだ。
フェンリルの方にも、長時間の戦闘による疲労が蓄積していたのだろう。
ふわりと浮いて、体が横倒しに倒れる。
ここぞとばかりに、そのフェンリルの顔面をおおうように被さる、アビちゃんとドッペさん。
窒息させようとしているのだ。
息が出来ず、苦しみ暴れだすフェンリル。
そこへ駆け寄ったベヒーモスズが、その角でフェンリルの四肢を地面に磔にする。
その皆が集まっている隙間から、俺の覗き魔の眼球がようやくはっきりとフェンリルを捉える。
鑑定スキルが、ようやくフェンリルの情報を開示していく。
『モンスター:エルダーフェンリル
呼称:□□□□
所属:深淵の真なる暗黒の下僕の一。十三神獣、十二席
スキル:氷雪魔法、絶対忠義、神速移動、危機察知、立体機動、□□□、□□□
絶対忠義スキルにより邪視魅了をレジスト中』
『エルダーフェンリルを魅了中。魅了達成率48/100』
磔にされたエルダーフェンリルに、そう左目の文字が二重写しになる。
一つは、フェンリル自体の鑑定結果だろう。
文字化けが一部ある。
もう一つは俺の邪視スキルによる魅了の達成率のようだ。
悶え苦しむエルダーフェンリルの、魅了の進捗ははっきりいって遅々としている。増えてないわけではないが、たぶんエルダーフェンリルのもつ、絶対忠義というスキルの効果なのだろう。
俺の邪視スキルが一応はレジストされているようだった。
──でも、絶対忠義という割には、魅了の状態異常が進行しているみたいだな。名前負けな、スキルかも? まあ、それだから俺の視線をあれだけ嫌がったのか。
忠義深いワンちゃんなら、確かにスキルで強制的に忠義の相手を変えられるのは、嫌なものだろう。
そうしているうちに、悶え痙攣していたエルダーフェンリルの動きが止まる。
その体を磔にしていたベヒーモスズがゆっくりと後退し、エルダーフェンリルを窒息死させたアビちゃんたちの姿があらわになる。
エルダーフェンリルの顔から離れ、ふよんと一跳ねするアビちゃん。
その健闘を称えるようにべべちゃんとベヒーモスズが高らかに鳴き始める。
アビちゃんとともに窒息に一役かったであろうドッペさんも、体の一部を伸ばしてアピールしている。
アビちゃんも同じ様に体を伸ばすと、ハイタッチを交わす二人。
べべちゃんたちの声がいっそう大きく、称えるように鳴り響く。
その一連の光景に、俺は安堵のため息を漏らすと、張り付いていた壁からしばらくぶりに離れる。
「皆が無事で、良かった。それにしても、長かったな……」
そのまま俺はその場に座り込むと、片手で、疲れきった左目を覆う。
すると、スキル覗き魔の眼球を使用したままだった視界に、俺の片手に被さるようにして文字が映る。
それは前にも見た文字。
『称号を獲得しました』と書かれていた。




