第48話 出来ることを見つけてみました
最初、アビちゃんたちと戦っている相手の姿が俺にはうまく捉えられなかった。
新たなる覗き穴、仮に覗き穴ベータと呼ぼう。
もちろん、最初の覗き穴が、覗き穴アルファだ。
その覗き穴ベータの穴の先は、白銀の世界だった。
そう、ダンジョンの中のはずなのに、そこは雪が舞い、氷が辺り一面をおおっている。
そのなかを激しく動き回るアビちゃんと、アビちゃんの姿をしたドッペさん。
しかし、スライムであるアビちゃんたちの体の動きは、いつもよりぎこちない。高速移動のスキルを持っているのに、だ。
たぶんその覗いた先の場所が見た目通り、気温が低くて、アビちゃんたちの体の柔軟性がいつもより失われてしまっているのだろう。
一方で、べべちゃんとベヒーモスズは一ヶ所にて、一塊となっている。角が外向きになるように並んで、かたまっている光景はまるでファランクスのようだ。
そして、敵はその彼らの周辺を跳び回るようにして、とても速く移動していた。
舞い散る雪の妨害を掻い潜るようにして、俺はその敵の姿を捉えることに、ようやく成功する。
「──あれは、フェンリルっ!?」
それは、雪と氷を操るとされる白銀の毛皮をまとった狼。一般人の俺でも知っている、ドラゴンに並ぶ有名なモンスターだった。
そのフェンリルと、アビちゃんたちは苦労しながらも善戦しているように見えた。
なので、俺は少しでも手助けができたらと、鑑定スキルをフェンリルに使用しようとする。
「──駄目だ、速すぎるっ」
まるで俺の視線に気がついたかのように急加速をするフェンリル。そればかりか、かくかくと、鋭角的に移動の向きまでも変えてくる。
そのトリッキーな動きで、俺の視線が振りきられてしまう。
何とか一瞬、フェンリルを視界に収めるも、鑑定スキルを発動にまで持っていけない。
ただ、そのお陰というのもおこがましいが、ベヒーモスズのうちの一体を狙っていたと思われるフェンリルの攻撃が、不発に終わる。
──視線に捉えるの、めちゃくちゃ難しい。でも、いま明らかに俺に見られるのを嫌がったよな、あのフェンリル。攻撃するより、俺に見られないことを選んだっぽい。だとすると、俺にも出来ることはあるわけだ。
俺はブラウニーちゃんたちの作ってくれたお守りのスプーンを無意識のうちにぎゅっと握りしめる。
そして、覗き魔の眼球スキルを発動すると、再び攻撃姿勢を取り始めたフェンリルを見ようと試みる。
──やっぱり、逃げたっ。しかも、相当、嫌がっている感じがする。
あそこまで必死に、自分の視線を嫌われることに、少しだけ微妙な気持ちにならない訳ではなかった。
しかし、今はそんなことよりもフェンリルの妨害が最優先だ。
俺は、少しでもアビちゃんたちの役にたてるよう、フェンリルを視線に収めようと必死に覗き穴ベータから深淵を覗き込み続けるのだった。




