第41話 ドッペさんの確認をしてみました
ドッペルゲンガー──名前はドッペさんにした──がアビちゃんの姿になると、穴を通ってダンジョンの深淵へと移動する。
「オッケー。それじゃあ、始めるよー」
俺は穴の向こうに向かって声を出す。とはいっても声はたぶんあまり向こう側に届いていないだろう。
ただ、事前にドッペさんとアビちゃんとはちゃんと打ち合わせはしてあるので、問題はなかった。
打ち合わせ通りに、ドッペさんがゆっくりと、俺が深淵を覗く穴から離れていく。
今、俺がしているのはドッペさんのドッペルゲンガーとしての能力の検証だった。
そこへ、なんだなんだとばかりに、べべちゃんとベヒーモスズ、そして手の空いているブラウニーちゃんたちが集まってくる。
その様子を俺が眺めていたからか、ドッペさんが次々に皆の姿に変わっていく。
すると、べべちゃんはベーベーと不思議そうに鳴き、ブラウニーちゃんたちは驚いた様子で顔を見合わせると、なぜか拍手を始める。
なんだか賑やかで、とても楽しそうだ。
そんな皆の姿を部屋から一人で眺めている俺も、だんだんと嬉しくなってくる。
検証をしている、というのを忘れてしまいそうだった。
そう、いましているのはドッペさんの検証。それは、俺からドッペさんがどれくらい離れたら、俺の思った姿にならなくなるか、の確認だった。
協力してくれているアビちゃんは、ドッペさんと一緒にすすんでいるのだが、その体の一部を細長く、伸ばしてくれている。その先端は、俺が深淵を覗いている穴の所にある。
あとでそのアビちゃんの伸ばした長さを計らせてもらうという算段だった。
そして本当はドッペさんには、霊羅さんとアビちゃんの姿へ、交互に変化してもらおうと思っていたのだ。けれど、これはこれで良いか、と思う。
──ドッペさんが変化しなくなるタイミングさえ解ればいいしね。無理に霊羅さんの姿をとってもらう必要ないし。
ただ、俺がそんなことを考えていたので、当然、ドッペさんは霊羅さんの姿になる。
──よしじゃあ、次はアビちゃんで……アビちゃん……アビちゃん……あれ、変わらない。
俺が必死にアビちゃんの姿を考えているのに、ドッペさんは霊羅さんの姿のまま。
そのまま離れていこうとするドッペさんをアビちゃんが止めてくれる。
──さすがアビちゃん! すぐに気がついてくれたな。さて、……
打ち合わせ通り、ドッペさんはその場に止まり、アビちゃんだけこちらに戻ってくると、伸ばしていた体の一部だけを深淵を覗く穴から、俺の方へ差し出してくる。
──おっ! さて、さっそく測るか……うーん、意外と短いな。ま、いいか。これで一つはわかった。それじゃあ、次だ!
俺はスマホを取り出すと、時刻を確認する。
その間に、アビちゃんは特に打ち合わせをしていないのだが、霊羅さんの姿をしたドッペちゃんの方へと戻っていってしまう。
それを少しだけ寂しく見送りながら、俺はスマホに視線を落とし、時刻の確認を続ける。
次の確認は、俺から離れた状態で変化しているドッペさんが、時間経過でどうなるかのチェックだった。
静かに時間だけが過ぎていくなか、その場に佇む、霊羅さんの姿をしてドッペそんとアビちゃん。
それを最初は興味深そうにまじまじと見ていた、べべちゃんたちだったが、やがて飽きたのか、それぞれのお仕事に戻っていくようだ。
ドッペさんとアビちゃんは、その場でなぜか楽しそうにやりとりしているように見える。
時間ができた俺は事前にブラウニーちゃん達が準備してアビちゃんが運んでくれていた食事を食べ始める。
今日も美味しい。
外を色々と回って、スタンピードにまで巻き込まれた一日の疲れが、一発で吹き飛ぶかと思うほどだ。
食事をとりながら、時たま深淵を覗くが、霊羅さんの姿をしたドッペちゃんに変化は見られない。アビちゃんと楽しそうにしているだけ。
それをちょっとだけ複雑な気分で眺めながら、俺はスマホで今日のスタンピードについて何か情報は無いか流し見をしていくのだった




