第40話 お持ち帰りしてみました
──これ、アビちゃんに怒られたりしない、よね? こんなもの連れて帰ってきて、って。
俺は時空の綻びの、特大の箱から出たそれとともに、自宅へと帰ってきたところだった。
「ただいま……」
恐る恐る、俺は自宅のドアを開ける。
たぶん、帰宅の途中では誰にも見咎められることなく、帰ってこれたはずだ。
──スタンピードで、避難の指示が出てたからか、人そのものが少なかったし。いた人もみな、逃げるのにバタバタしてたし……そういや、霊羅さんはあのあと、どうだったんだろう。探索者の情報は基本的にネットには上がらないからな……
俺はスマホをいじりながら現実逃避的に、そんなことを考える。とりあえず、SNS上には俺自身のここまでの行動についてのこととか、情報として上がってる感じは無さそうだった。そして、やはり霊羅さんの情報も見あたらなかった。
そしてそんなことを俺が考えたからだろう。
気がつけば連れて帰ってきた「それ」が、柔らかな質感の球体から、白銀の髪の、獣のように情熱的な瞳をした探索者の姿に変わっていた。
そう、俺があの時、特大の時空の綻びから手にした箱。その中には、アビちゃんの時と同じ様に、モンスターが入っていたのだ。
それが、この子──ドッペルゲンガーだった。
ドッペルゲンガーといえば普通、自分自身と同じ姿になりそうなものだ。
しかし不思議なことに、このドッペルゲンガーは、俺ではなくて、俺が想像した人や生命体に姿を変えるみたいなのだ。
ちなみにアビちゃんが眷属になる際には餌付けをしたのだが、今回は現れたドッペルゲンガーをスキル「覗き魔の眼球」で見ていたら、ついでに発動していた邪視スキルで、魅了してしまった感じだった。
そこは、べべちゃんと同じような流れといえる。
「アビちゃんー、いるー、かなー?」
俺がそう、そっと声をかける。
そうすると、今度はまた、ドッペルゲンガーがアビちゃんの姿へと変わる。
コロコロと姿が変化をしていて、落ち着かない子だ。
ちなみにこれはアビちゃんには内緒だが、家まで帰ってくる間は、ずっと霊羅さんの姿をしてもらっていた。
つまり、帰りの間、俺はずっと霊羅さんのことを考えていたことになる。もちろんあれだけ印象的な見た目なので、それが一番楽だっただけだ。そう、それだけだ。
他意は全く、これっぽっちもない。
そんなことを俺が考えていたので、またドッペルゲンガーがアビちゃんから霊羅さんの姿へと変わってしまう。
その時だった。
冷蔵庫の横の穴から、アビちゃんが現れる。
「あっ──アビちゃん……あの、この子は──」
俺はとっさに言葉が出てこない。
アビちゃんが、すーと霊羅さんの姿をしたドッペルゲンガーの前にまで来ると、そのままそこで動きを止めたのだ。
明らかに俺が何か言うのを待っている雰囲気が、ひしひしと伝わってくる。
ただ、ドッペルゲンガーのいまの姿である霊羅さんと俺とは、特にこれといった関係もない。なので今更ながらに、説明が難しい。霊羅さんとの関り合いとして言えば、少しだけ話したことがある、程度なのだから。
そして俺が説明に悩んでいる間、ドッペルゲンガーはずっと霊羅さんの姿をしたままだった。
「……あのさ、この子はドッペルゲンガーで……」
ようやくそれだけ告げる。すると、そこでようやくアビちゃんがふよんと小さく跳ねてくれる。
それをみて、俺はほっとする。
タイミングよく、ドッペルゲンガーがアビちゃんの姿へと変わる。比べて見てみると、本当にそっくりだ。
そしてアビちゃんサイズのアビススライムが、二体も部屋にいるのは、なかなかに窮屈だった。
アビちゃんは自身の姿に変わったドッペルゲンガーを興味深そうに体の一部を伸ばして触っている。
ドッペルゲンガーもまるで負けじとばかりに、同じ様に体の一部を伸ばしている。
微笑ましい光景だった。なんとか仲良くしてくれそうで、俺はホッとする。
そうして軽くなった口で、俺は綻び石を探しに行ってからの経緯を、ようやく説明できたのだった。




