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覗き穴ダンジョン~自宅警備員の俺の部屋の壁にダンジョンの深淵を覗ける穴が空いた件  作者: 御手々ぽんた


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第39話 sideプラチナランク探索者 霊羅ありす4

 私は気がついていたら手を伸ばしていた。


 こちらを見るその方こそが、視線の方だと、確信があったのだ。


 その方は、とても不思議な方だった。


 探索者ですらない、一般人の装い。

 年齢のほどは、私よりひとまわりくらい上だろう。


 しかし、そんな外見など、ささやかなことだ。


 明らかに存在を感じさせる、秘めたる力。その力の放射だけで、私の体が疼き熱くなる。


 私にはわかる。いや、もしかすると私にしか、わからないのかもしれない。


 気がつけば尊き宝石を掬い上げるように、その瞳の宿る顔に私は触れ、その瞳の奥に眠る力に恋い焦がれながら、覗きこんでいた。


 そこには、深淵があるに違いない、と。


「──隠さないで。見て」


 自分の唇がいつの間にか発していた言葉が、信じられない。


 初対面の相手に対して、そもそも失礼過ぎる物言い。

 どう考えても、不審者の行動と言葉だ。


 それでも止まらない。止められなかった。

 そんなあさましい私の物言いと行動にも関わらず、その方は私の言葉を聞き届けてくれたのだ。


 そして、始まった。


 私の新たなる人生。真の人生が。


 素晴らしい経験だった。


 視線の方が、その力の一端を解放し、私に深淵の淵を覗き込ませてくれる。

 自らが明らかに作り替えられていくのがわかる。


 視線の方の中にあった深淵が、私をみるみると侵食し、この身も心も、それ一色に染め上げられていく。


 なんという甘美。なんという愉悦。


 そのさなかに告げられた視線のお方の御言葉(みことば)が、私の真なる人生の、指針となり、魂へと深く深く刷り込まれていく。


「視線の方は何者でもない」「モンスターですよ。しっかりしてください」


 それが、私の新たなる生での、至上の命題となった。


 モンスターを「しっかり」討伐することは、問題ない。これまでの私の仮初だった人生の大半で、行ってきたことだ。


 プラチナランクの探索者として。

 人類においてかつては唯一、深淵の滴に触れしものとして。

 私はほぼそれだけに時間と命を費やしてきたのだから。


 だから、まずはゲートより現れたモンスターたちを「しっかり」と殲滅することにした。


 そこからの私の動きは、自分で言うのもなんだが、とても軽快だった。

 かの方により授けられし真の人生の命題。その一つを果たせるという喜びが、私から実力以上の力を引き出していく。


 それに対するように、もう一つの命題は難題だった。


 視線の方が何者でもないことをお望みなのだ。その尊き存在を、有象無象に知られるのをお望みではないのだ。


 細心の注意を払いながら、私は自身のとるに足らない地位と力で、そちらの命題にも尽力することを魂に刻み込む。


 そしてその機会はすぐさま訪れる。


 私が全身を返り血で染め、現出したスタンピードを全て「しっかり」と殲滅し終えて意気揚々と、かの方のお近くまで戻って来たときだった。


 かの方の御姿を命題に従い直視しないように気を付けながら、物陰から慎ましく眺めていると、突然、どこからともなく巨大な箱が現れたのだ。


 私はその箱の異様さにおののきながら、かの方の先見性に身震いする。


 こうなることを予見しての、かの方の御言葉だったのだろう。そして私は自身の果たすべき勤めを思い出し、さっそく二つ目の命題に取り組む。


 急いで周囲をまわり、監視カメラの位置と画角を確認。さらに、他に目撃者がいないかを漏れなく把握していく。


 幸い目撃者はいなかった。口封じの手間が省ける。


 監視カメラの方は残念ながら設置されていた。


 ただ幸いなことに、私は仮初の人生で得た深淵の滴に触れた実績から、深淵に関する情報の秘匿に関して、高い権限を得ていた。

 これまでは、ほとんど使うことがなかったものだ。


 それは、誰も閲覧するのことできない秘匿ファイルへと情報を封印することを条件に、深淵に関する情報については合法的に、完全に自己判断で情報を秘匿できるという、権限。


 これはダンジョンの深淵が持つとされる精神汚染の著しい危険性を鑑みた、特例だ。


 私はスマホを取り出すと、複雑で何重もの認証をこなして、情報の秘匿権限を保有する者のみが存在を知るAIにアクセスする。国防軍の上層部と、一部の探索者のみがアクセスできる、情報操作と秘匿を専任とするAI──通称ヒトクちゃん。


 ようやくスマホの画面上で目を覚ます仕草をするヒトクちゃん。可愛い女の子アバターなのは、開発者の趣味なのだろう。

 ヒトクちゃんへ、私はかの方の該当情報の完全秘匿を、口頭で指示し始めるのだった。







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