第37話 見送ってみました
近くの時空の綻びから現れたゴリラ型のモンスターをあっという間に消し飛ばしてしまった霊羅さん。
いまならと思って、俺は改めて自身のスキルについて、霊羅さんに質問しようとしたときだった。
霊羅さんは何かを呟いて、急に走り出してしまう。
少し距離があって、はっきりと霊羅さんの呟いた内容は聞こえなかった。ただ、「モンスター」とか「しっかり」と、言っていたような気はする。
「あ、」
俺はそこで、霊羅さんが走り出した方を見て、いま何が起きているのかにようやく気がつく。
俺が発見した他の時空の綻び。
どれもサイズが大きかったものだ。
そこから、次々とゴリラ型のモンスターが現れ始めていたのだ。
辺りから悲鳴と怒声、そしてものの壊れる音が響き始める。
俺の近くでは、なぜかピクリとも動かないまま霊羅さんに消し飛ばされたゴリラ型のモンスターだったが、遠くに見える姿はいかにもモンスターらしく、暴れ狂っていた。
霊羅さんはそのうちの一つに向かって行ったのだろう。
そしていまのこの状況を、一般人の俺でも知っていた。
スタンピードだ。
ダンジョンによる世界的大不況の、直接の原因。
現在、何とか人類圏がダンジョンの存在と均衡を保つようになる以前に、頻繁に各地で発生していたと、俺も昔、習ったものだ。
──時空の綻びって、時間が経つとゲートになる、のか? え、でも、あのゴリラっぽいモンスターって、相当、強そうだけど……。それに、ゲートが繋がるはずの第一層って、既にほとんどモンスターは討伐されている、はず……
全てのゲートが繋がるとされるダンジョンの第一階層は、ほぼ人類の支配域となっていたはずだ。そうなったお陰で、スタンピードの発生が全世界的に収まり、いまの均衡が保たれている、はずだった。
──やっぱり何か、情報が秘匿されている? それとも、ダンジョン自体に何か大きな異変があったとか……もしかして、スキルで何か見えないかな?
明らかに戦いに向かって行ってしまった霊羅さんの後ろ姿が見えなくなったあと。
改めて俺が覗き魔の眼球スキルを使用した時だった。
避難を告げる放送が辺り一帯に響きわたる。
それはモンスターに対抗しうる探索者と国防軍以外の、強制避難を告げる放送。
この強制避難に従わなければ、刑事罰もありうる。
しかし、スキルで、俺は見てしまったのだ。
まだ、全ての時空の綻びがゲートに変わったわけではなかった。
今にもモンスターが溢れでそうに激しく瞬く、時空の綻びを示す赤い光が、一つ。
それも特大サイズだ。
それが比較的、俺の近くにあった。




