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覗き穴ダンジョン~自宅警備員の俺の部屋の壁にダンジョンの深淵を覗ける穴が空いた件  作者: 御手々ぽんた


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第35話 sideプラチナランク探索者 霊羅ありす3

 ──もう、いくら会議を繰り返しても仕方ないだろうに。


 霊羅ありすは内心の悶々とした疑義を圧し殺して、深淵探索同好会のパーティーメンバー達が交わす会話に冷静に耳を傾けていく。


 ありすたちはいま、深淵探索同好会が所属するギルドが持つビルの、貸し会議室の一つにいた。


「──さて、これを見てくれ。ダンジョンの支配者を現すシンボリックフィギュアとして、新たにダンジョンの宝箱より産出し始めてものだ。逆に竜のシンボリックフィギュアの産出は「あれ」以降、観測されていない」


 明らかに牛を思わせるフィギュアを出しながら告げる、保坂。

 ありすは事前に保坂から今日の会議の相談を受けていたので、そのフィギュアの存在自体は聞いていた。しかし見るのは始めてなので、少しだけ興味深くそれを見る。


 ──明らかにベヒーモス系のモンスターのシンボリックフィギュア。


 ちなみに、苦々しげに保坂が告げる「あれ」とは当然、ありすたちが深淵竜によって壊滅させられた時のことだ。

 あのときは突然現れた複数のベヒーモスにより、深淵竜が串刺しにされた。


 そのときは、己を殺す存在が深淵竜からベヒーモスに変わっただけか、と思ったものだ。しかし、不思議なことにベヒーモス達はありすたち深淵探索同好会のメンバーを気にすることすらなく、深淵竜を引き摺るようにしてダンジョンの奥へと消えてしまったのだ。


 そうして取り残される形になったありすは、意識のない仲間達を担ぐようにしてダンジョンより、命からがらの脱出行を行う羽目となったのだ。


「……それはあれでしょー。ありす姫の証言通り、なだけなんじゃないのー?」


 火菜美(かなみ)が、いつものように、からかうように保坂に告げる。ただその声はどこか甘えた感じが漂っていた。

 あのあと、二人の間にも色々とあったのだろう。


「そうだ。だが、おかしいこともあるんだ、火菜美」

「そうなのー? これまで宝箱から産出していた三種のシンボリックフィギュア。入り口を守る竜、裏を統べる虎、中央に侍る漆黒球。そのうちの一つが、牛になっただけでしょー?」

「……そう、これまでも出てくるシンボリックフィギュアは三種だった。そして、同じ種類のシンボリックフィギュアは、全く同じ見た目だ」

「うん、そうねー」

「しかし、この牛のシンボリックフィギュアは違うんだ」


 そういって、もうひとつの牛のフィギュアを取り出す保坂。それは、確かに見た目が違った。


 たてがみが黄色く変色している。


 そして、このことはありすも初耳だった。


 ありすがどういうことかと保坂を問いただそうとした、その時だった。


 ゾッとした感触が、背中を駆け巡る。


 それはかつて一度だけ感じたことのある、懐かしい感覚。

 いまだに忘れられない、記憶。


 あれも、そう。ちょうどこのビルに向かって、ありすが歩いていた時だった。

 ありすの保有する、邪眼耐性スキル。深淵竜のドラゴンブレスの光から、ありすを守ったスキルだ。そのレジストの副作用として感じる感触だった。


 そしていまありすが感じた背中を駆け巡る感覚は、明らかに深淵竜のものよりも強く深く、そして何よりも、情熱的に激しかった。


 ──あの視線の方が、いる! こちらを見たんだ!


 気がつけばありすは立ち上がり、駆け出していた。


 そんなありすを、何事かと呆然と見るパーティーメンバーたち。しかしその視線にありすは気づくことすらなく、会議室から出るとビルの階段へ向かい、一気に駆け上がる。


 ──ああっ。またっ……あっちだっ!


 そんなありすの背中を再び駆け巡る、人生において三度目の感触。あまりの激しい感覚に、思わず足がもつれそうになるのを、気合いだけで耐え走り続ける。


 屋上につながるビルのドアを軽く蹴破り、ありすは外へと出る。

 二度、短時間に位置を変えて感じた感覚から、本能的に視線の発せられた方角と距離を把握すると、ありすは屋上を全速で走り、思いっきり跳躍したのだった。





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