第34話 再開と再会とをしてみました
「ここまで空振りだったし、気が進まないけど……まあ、見るだけ見るだけ」
自宅周辺の綻び探しを諦め、探す範囲を広げると決めた俺は、遠出をして色々とまわっているところだった。
綻び探しときのいつもの服装に、今回は出掛けにアビちゃんにお願いされる感じで、例のスプーンをポケットに忍ばせている。まあ、お守りみたいなものだ。
そんな感じで、ダンジョン災害の被害で人の少ない地域を俺は見て回っていたのだが、どこも外れだった。
なのでさらに遠出をする前に、比較的ダンジョン災害の少なく人の多い場所を俺は訪れているところだった。
そう、ここは先日──もう、体感的には結構、昔に感じられるが──ダメだった採用面接の帰りに通った地域だった。
──てっきり、ダンジョン災害の影響で時空の綻びが出来てたのかなーと思ったんだけど。ここまで回った感じだと、そんなことも無さそうなんだよな……綻びが出来るのって、どういう法則性なんだろう?
俺はここですでに一度、覗き魔の眼球スキルは使用している。
しかし短時間だったし、人だかりの方ばかりを注視していたので、当然、見落としのある可能性も高い。
唯一の心配は、例のプラチナランクの女性探索者だ。
俺のスキルの視線を感知してたっぽい、白銀の髪の、獣のような美しさを持った探索者。
ただ、明らかに多忙であろうトップランクの探索者が、俺が訪れたのと同じタイミングで、同じ街をたまたまブラブラしているなんて可能性は限りなく低いはずだ。
それに、俺自身の気持ちも、実はどっちつかずなところがあった。
その探索者の女性に見つかれば、絶対に面倒事になる予感。
その一方で、トップランクの探索者なら、俺のこの深淵を覗いて手にいれた力について何かを知っていてるのではないかと言う、淡い期待。
そう、そういった実利的な理由で、俺の心は揺れ動いているわけだ。
決してあの、肉食獣のような美しい立ち振舞いと玲瓏な瞳をいま一度見てみたい、訳ではないのだ。
「──スキル『粗探し』」
グダグダしていても仕方ない。
家では、可愛いアビちゃん達がきっと美味しいご飯を準備してくれている。
さっさと済ませて帰ろうと、俺はスキルを使用する。
「……うーん。微妙にある……」
ポツンポツンと、時空の綻びを示す赤い光が見える。
数は少なめ。そして一つ一つが大きそうだ。綻び石がほしい俺には、そこはあまりよい知らせではない。
それでも、他の全然見つからない地域よりは明らかにましだ。
ただ、問題は他にもあった。どうやらビルの上や建物の中やら、入るのが困難そうな場所ばかりみたいなのだ。
──これまで路地裏とか、手の届く場所ばっかりだったから、この可能性は失念してたな。うーん。もう少し近づいて角度を変えて見てみるか。
建物のなかにありそうに見える赤い光も、角度を変えて見れば、もしかしたら外にあるのがわかるかもしれない。
そんな期待を胸に俺はゆっくり歩き出す。
人通りが多いので、変に思われないように気をつけながら。
そんな感じで街を歩き回り始めて、見つけたなかでも特に一番大きそうな赤い光を観察していたときだった。
遠くの方で人々の歓声のようなものが聞こえ始める。
──あ、嫌な予感がする。
俺は慌ててスキルの使用を中止する。無意識のうちに、ポケットに片手を突っ込んで、お守りがわりのスプーンをぎゅっと握りしめる。
──とりあえず、ここまで見つけた時空の綻びのうち、半分くらいは手の届きそうな場所にあった。それだけ分かれば、とりあえず今日の収穫としては十分。帰ろう……
ゆっくりと後ろを向いて、穏やかに一歩、俺が踏み出した時だった。
シュタっという、軽やかな着地音。
何かが頭上を通りすぎたことで生じた風が、俺の頬をくすぐる。
俺の目の前すぐそこに、目にも鮮やかに白銀の光。
それは、屈みこんだ、後ろ姿。
高所から、いま、まさに跳んできて着地したばかりの人影が、ゆっくりと俺の方を振り向こうとしていた。




