第31話 何かの棒をもらってみました
焼き肉食べ放題に行った次の日の朝。
アビちゃんの取れたて深淵の果実で、俺は朝食を済ませたところだった。
俺に深淵の果実を渡して、すぐまた深淵へと行っていたアビちゃんが、再び戻ってくる。
なんだか深淵への行き来がやけに忙しない。
そんなアビちゃんだったが、今は俺の目の前で一生懸命、ふよんふよん、ふよんふよんと跳ねている。
どうも、何かあったようだ。
──どうしたんだろ? 慌ててるってよりかは、なんか待ちきれないって感じがするような?
なんとなくアビちゃんの感情がわかるようになってきた俺の予想はまあまあ当たっていた。
俺の注意を引いて、すぐに深淵に戻るアビちゃん。それに続いて俺が深淵を覗きこんだ先。
そこにはブラウニーちゃんがいた。
俺が深淵を覗く穴の、比較的近くに一人。
そしてその後ろに、その先頭の一人を取り巻くように、たくさんのブラウニーちゃんたちが並んでいる。
今日はあの恐ろしげな電動ノコギリをもっている子はいない。
──あれ、そういえば深淵竜の死骸が見当たらない。アビちゃんが気を利かせて、片付けるように指示してくれたのかな?
深淵を覗きながら、そんなことを考えていると、俺の目の前で一人たつブラウニーちゃんが何かをしている。
よく見ると、そのブラウニーちゃんだけ少し他の子より年上に見える。とはいえっても他の子が小学校低学年から幼稚園生ぐらいの見た目なのが、その子は小学校高学年、くらいに見える程度の差だ。
──お姉さんブラウニーちゃんなのか。何かの棒を箱から取り出して、両手で持ってるな。
そんなことを考えていると、お姉さんブラウニーが取り出した棒を両手で掲げるように持つ。
その横に、アビちゃんが近づいていく。
両手で捧げるようにお姉さんブラウニーが棒をアビちゃんに差し出すと、アビちゃんはそれを受け取り、体の中へと取り込んでしまう。
その時だった。周囲のブラウニーちゃんたちからぱちぱちと拍手が起こる。
──え、何かの儀式か催し的なものなの、 これ? それをアビちゃんは俺に見せたかったって訳?
ただ、そう考えると少し納得がいく。
朝からアビちゃんが忙しなく行き来していたのは、この催しの準備をしていたのだろう。
そうだとすれば、この催しはアビちゃんには少なくとも重要なもののはずだ。
そこまで考えて、俺はおとなしく事の推移を見守ろうと決意した時だった。
急にアビちゃんが穴を通って深淵から帰ってくる。
「うわっと……」
そしてアビちゃんが先ほどのお姉さんブラウニーからもらった棒を体から取り出して差し出してくる。
「──俺にくれるの?」
ふよんと跳ねるアビちゃん。
「それじゃあ……」
滑らかな手触り。長さは俺の広げた手のひら、二つ分くらいの短めの棒だ。棒の片側は握りやすい円柱状で、反対側は薄く平らになって、少し窪んでいる。
俺が知っている物のなかで、強いて一番似ているもので言えば、平たいスプーンっぽい形状だ。
俺は鑑定で、手の中のその不思議な棒を見てみる。
その時だった。左目に一瞬だけ、ノイズのようなものが走る。
しかしすぐにノイズは収まり、文字が表示されていく。
『深淵□の□□の□笏:ダンジョンにおける最も硬度の高い物質の一つ。持つものに□□を□□□□。□□□□□□□□□。□□□□□□』
「なんだ、これ……」
それは俺が鑑定では始めてみるタイプの、文字化けのような表示だった。




