第29話 工房を開設してみました
アビちゃんは、どうやら俺に綻びポイントを使用してブラウニー工房を開設して欲しいようだ。
──ブラウニーって確か妖精だったっけ? 靴とか修理するやつ? なんでまたそんな……
俺はじっとこちらを待っている様子のアビちゃんを見る。
──ま、いいか。アビちゃんが欲しいなら……きっと何か意味があるんだろうし
「オッケー。それじゃあ、アビちゃん。ブラウニー工房とやらを開設してみるね」
俺の言葉にふよんと大きく跳ねるアビちゃん。やはり嬉しそうだ。
──アビちゃんが喜んでくれるならいいか
俺は先程の支配領域拡張に引き続き、今度は綻びポイントを使用してブラウニー工房開設を実行する。
深淵を覗き込む俺の左目を大量の文字列が流れていく。
これまでにないぐらい大量だ。
支配領域を作った時よりも多いぐらい。
その目の前を埋め尽くす文字列の先では不思議なことが起きていた。
のんびりとしていたベヒーモスズが、ベベちゃんの一鳴きでその身を起こすと、いそいそと移動していく。
そうして空いたスペースの一角が、ぽこんと盛り上がったかと思うと、石造りの建物に変化した。
「──なんか出来た。あれがブラウニーの工房ってことか?」
俺がそれを建物だと思ったのはそれに窓とドアがついていたからだ。
ただ、窓は磨りガラスのようになっていて、中は見えない。
その時だった。
がちゃりとその建物についているドアが開く。
そこから、わらわらと人影が出てくる。
「──ちっちゃい、女の子? いや、あれが妖精なのか」
まるで石造りの建物にみっちり詰まっていたかのように大量に現れた人影たち。
一見、幼稚園か小学校低学年くらいの年の小さな女の子に見えたが、あれが、妖精のブラウニーたちなのだろう。
それは妖精とは言ってもいわゆる、羽の生えた空を飛ぶ小人タイプではなくて、童話などに出てくる小型にデフォルメされた姿の人間に似た見た目をしていた。
お揃いのポンチョのような服装に、エルフのように耳が尖っている。
そして、みな、手に手に様々な工具を握っていた。
──もしかしたら、ブラウニーとしてはあれで成人なのかもしれないけど……
そんなことを俺が思ったのは、小さな女の子に見えるブラウニーが持つには、危険そうに思える工具が多かったのだ。
何人かは明らかに電動ノコギリらしきものを持っている。
その電ノコを持ったブラウニーちゃんたちを先頭にして、一団はまとまって移動を始めた。
向かうのは俺の支配領域の真ん中に横たわる深淵竜の死骸。
「あ、まさか……」
俺が呟いた時だった。
ブィーンという電動音が複数、鳴り響き始める。
そこから始まるであろう光景を想像して、俺は思わず深淵から目をそらす。
最後に見えたのは、電ノコを構えたブラウニーちゃんたちが嬉々としてその回転する刃を深淵竜の亡骸に当てるところだった。




