第28話 支配領域を拡大してみました
俺が呆然と深淵を覗き込む間にも、ベヒーモスズによって着実に俺の支配領域へと進む、深淵竜の死骸。
そして、ついにその頭部だった部分が、俺の支配領域の光の帯の中へと、届く。
それを見届けたのだろう、アビちゃんが俺の覗く穴の方へと向かってくる。
「──おっと」
慌てて俺が顔を壁から離すとほぼ同時ぐらい。
アビちゃんが深淵から戻ってきた。
「あ、アビちゃん──」
俺が話す前に、楽しそうにふよんふよんと跳ねるアビちゃん。
まるで褒めてほしいかのような仕草に、思わず俺は手を伸ばして、アビちゃんを軽く撫でてあげる。
「──よしよし」
ホワホワとした感触。
撫でられているアビちゃんが、嬉しそうだ。
俺のよしよしに満足したのか、アビちゃんは次に体の一部を、にゅんと伸ばして俺の手を指し示してくる。
「……ウロボロスリング? ああ、いちおう、綻び石は二個だけ見つけたよ。……そうだった。支配領域を拡張するんだったよね」
俺は覗きこんだ深淵の先の光景が衝撃的すぎて、当初の予定を完全に忘れていた。
──あれ、もしかしたら俺が支配領域の拡張をするからベヒーモスズたちにお散歩に行ってきてと伝えたから、ああなった訳? え……? まさか……
そんな不吉な予感が頭をよぎりかける。
しかし、すぐにそんなことはないはずと思い直すと、綻びポイントを【1】使用して、支配領域を拡張する。
「──さて、どうなったかな……」
俺が覗いている深淵を見回す、無事に支配領域が拡大していた。
それも、想像以上に広かった。
俺が深淵を覗ける穴から見える視界のほぼギリギリまで、支配領域は広がったようだ。
支配領域の縁に見える光の帯がところどころ、欠けて見切れるぐらいまで、一気に拡大したみたいだった。
そのお陰か、一体が小型トラックぐらいあるベヒーモスズも、六体とも支配領域の中に入れた様子だ。
すっかり、みな寛いでいる様子に見える。
「真ん中に深淵竜の死骸さえなければ、牛さんたちが穏やかにくつろぐ牧歌的な風景なのに……」
俺が思わすそんなことは呟いていると、手がつんつんとされる。
「──どうしたの、アビちゃん?」
アビちゃんの方を向くと、どうやらひたすらウロボロスリングをつんつんとしている。
「なんだろう、また、綻びポイントを使ってほしいの?」
ほよんと一跳ねするアビちゃん。
「オッケー。わかったよ」
改めて鑑定を使用して、深淵の俺の支配領域を覗き込む。
『アクセス可能支配領域です。システムへの干渉を実行しますか。
《実行可能な干渉》
・支配領域拡張 綻びポイント【4】
・支配領域深化 綻びポイント【1】
・支配領域特性付与(強化) 綻びポイント【1】
・支配領域特性付与(弱化) 綻びポイント【4】
・ブラウニー工房開設 綻びポイント【1】
保有綻びポイント【1】』
「──なんか、選択肢が増えてる。ブラウニー工房開設だってさ、アビちゃん」
俺が今見えた結果を隣のアビちゃんに話しかけると、アビちゃんは、ふよんと大きく一つ、跳ねたところだった。




