第27話 遅い帰宅をしてみました
「ただいまー。遅くなってごめんねー。アビちゃんー、いるー?」
久しぶりの焼き肉食べ放題を終えて、自宅にたどり着いた俺は、がらんとした室内を見回す。
「……アビちゃんは、深淵の方かな」
肉を食べてお腹は大いに満たされた。
だが、綻び探しの最後に遭遇した探索者らしき女性二人連れに絡まれた愚痴をちょっとだけ、こぼしたかったのだ。
ただ、その当のアビちゃんが見当たらないことで、少し冷静になる。
「俺、アビちゃんに甘えすぎかな……いかんな」
俺は気を取り直して、先にシャワーを浴びることにするのだった。
◆◇
「ふぅ……」
シャワーを浴び、綻びから出た箱を開け終えたところで俺は一息つく。
今回の戦利品はこんな感じだ。
現金:16,300円
綻び石:2個
めぼしいのはこれだけだ。
他に出てきたのは、ガラクタにしか見えない。それは、鑑定した結果を踏まえても変わらなかった。
改めてそのうちの一つを、鑑定スキルを使用しながら手に取る。
『綻びのアイテム:ミニチュアフィギュア(牛)。時空の綻びに隠されし報酬ボックスを力ずくで強奪せしものへ授与される。新たなる支配者誕生の記念品』
これと同じものがなんと七つも出たのだ。
しかも小サイズの箱と中サイズの箱、両方から。
「記念品って、ほんとこれ、何の役にたつの……?」
ただまあ、少しだけ見た目がベベちゃんに似ていて、可愛いフィギュアではある。
なので、とりあえず冷蔵庫の上に七体、並べて飾っておく。
狭い独り暮らしの部屋で、他に置く場所もないので。
「ま、殺風景な部屋が少し和らぐと言えば和らぐかな。でもせっかくならアビちゃんに似たスライムのフィギュアも出ればいいのに……さて、深淵の方はどうなって──なんだろう、あれ」
冷蔵庫から視線をずらして壁の穴を覗きこんだ俺は思わず固まってしまう。
ちょっと口には出し難いぐらいにグロテスクな光景が、そこには広がっていた。
「ベヒーモスズが、何か、引き摺って来てるのか……って、深淵竜? え……、深淵竜、死んでる? なんで? ベヒーモスズには散歩に行ってもらっただけなんじゃ……」
六体いるはずのベヒーモスズのうち、三体が角に引っ掻けて、鱗に覆われた巨大な塊を引き摺っている。
改めてよく見ると、どうやらその巨大な塊の向こう側に、残りのベヒーモスズが三体、いるようだ。
つまり俺が見ているのは、ベヒーモスズ全員で深淵竜の死骸らしきものを運んで来ている途中の光景のようだった。
「あっ、アビちゃんとベベちゃんもいたっ……あれは、アビちゃんたちは指示出ししてる感じ、か?」
ベヒーモスズのうちの一体の頭の上で、アビちゃんがふよんふよんと跳ねているのが見えた。
その動きにあわせて、ベベちゃんが鳴いて、ベヒーモスズの動きを統括し、微調整しているみたいなのだ。
どうやら俺の眷属たちは、なぜか皆で一丸となって深淵竜の死骸を俺の支配領域の方へと運ぼうとしているようだった。




