第26話 逆ナンされてみました
「やっぱり日中はやりにくい……通りを歩く人も、ゼロじゃないから気を使うし」
俺は綻び石を手にいれるため、うろうろと外を歩いているところだった。
そんななか、スキル粗さがしによる小さな赤い光をまた一つ見つけると、俺はいそいそとそちらへ向かう。
帽子の隙間から辺りを伺い、周囲が無人なことを確認してから、そっと時空の綻びに手をかける。
「よしっ、でた」
狙っているのは、前回の結果を踏まえて、中サイズから小サイズの綻びだ。
綻び石は前回、全て小さな綻びから出ている。
そして、中サイズの綻びの方は、現金が出たのだ。失業給付切れも近い俺としては、できればもう少し、現金も手にいれておきたいところだった。
あと、今回は手提げのコンビニのビニール袋をもってきていた。なので、今出た小サイズの箱もそちらへと入れる。
これで、綻びから出た小サイズと中サイズの箱がそれぞれ数個、ビニール袋に入っている。
なぜコンビニの袋かといえば、カモフラージュの一環だった。日中に、大きなごみ袋を担いでいるのは明らかに不審者だろう。
そんなこんなで、俺は箱をなんとか集めてはいるものの、やはり日中だと綻び自体が見えにくいこともあって、順調とは言いがたかった。
そして、調子が出ないのにはもう一つ、訳があった。
高らかに鳴る、俺のお腹の音。
そう、深淵の果実を二つともベベちゃんにあげてしまったので、自分のご飯が無かったのだ。
「──やっぱり焼き肉、行っちゃおうかな」
「いいっすね、焼き肉」
「ひっ」
まさか返事がないと思っていた俺の独り言に、急に背後から声をかけられたのだ。しかもさっき、周囲が無人なのを確認したばかりだ。
そんな声を俺があげたのも、仕方ないことだろう。
「……おい、アイカ。それはさすがに失礼だろ」
「えー。先輩が固すぎるんじゃないっすかー。これぐらい、僕にはぜんぜん普通っすよー」
俺が恐る恐る背後を振り替えると、そこには二人連れらしき女性たちがいた。
俺の独り言に声をかけてきたのは、アイカと呼ばれた僕っ娘だろう。低めの背に、女性らしい体つき。黙っていれば可愛いと言えなくもない容姿の女性。
そして、先輩と呼ばれた方は、背の高めな中性的な雰囲気の女性だった。
「あれじゃないっすかー。先輩、つまらない噂しか話さないような男友達とばっっっかり、つるんでるからー。コミュニケーション力が伸びないんすよー。先輩、ぜったい男脳になってますよー」
アイカと呼ばれた少女が、まるで誰か気にくわない個人を想定したかのように顔をしかめて、先輩と呼ばれた女性に告げる。
先輩も、心当たりがあるのか返答の歯切れが悪い。
「……いや。そんなことはないと、思うのだが……」
「そんなことより、おじさんおじさん。ここら辺で怪しい人、見かけてないっすかー?」
「──怪しい?」
アイカと呼ばれた少女がまた再びこっちに話しかけてくる。ぶっちゃけもう、あまり話しかけないでほしい。
なにせ、怪しいのは、明らかに君たちだよねと思いながらも、俺はいちおう、口には出さない。
さすがに年下であろう女性たちにそんなことを言うのは、と思ったのと、もう一つ理由があった。
たぶん目の前の女性二人は探索者だ。
服装は私服に見えるし、武器の携帯もない。
それでもなんとなくわかるものだ。
「そうそう、こんな大きなビニールのごみ袋を担いで、夜な夜なここら辺の完全廃棄地区をうろついているような、怪しい人ー」
「……それは、確かに怪しい人物だろうけど。うろついているのを、俺は見てないな」
嘘はついていない。
何せ、自分の姿は鏡でも使わないと見えないのだから。
なんにしても、前に俺が時空の綻び探しをしているところを、見られた可能性が高い。
──ただ、その怪しい人物が、帽子やマスクをしていた、と言っていない。ということは遠目にみたシルエット? やはり大きなごみ袋を持ってこなくて、正解だった……
俺は無表情を貫き通しながら、 冷静に推理を巡らす。
「そうっすかー。協力ありがとうっす。焼き肉、おごってくれるならついて行ってあげてもいいっすよー」
明らかに後半の台詞がおかしい。
わかりにくいが、そういう振りなのかと思って、俺は答える。
「……ごめんなさい?」
「がーん。おじさんに振られたっすー。しょっくー」
どうやら正解だったようだ。
「アイカ、いい加減にしろ。すいません、連れが」
「ブーブー。じゃあ先輩が焼き肉おごってくれるんすかー」
「おごらない」
「けちー。やっぱりここはおじさんに再アタックを──」
「ほら。いくぞ。本当にすいませんでした」
「──いえいえ」
先輩の女性がアイカを引き摺って、歩き去る。
少し相手のノリにのってしまった自分を可笑しく感じながらも、結局、今のは何だったんだろうなと思う。
──はぁ。時空の綻び探しは、少し自粛した方が良いのか……それか、場所を変えるか、だけど……
「とりあえず、焼き肉いくか」
ひと悶着あって、いっそう食べたくなった焼き肉の誘惑に、俺は結局、屈することにする。
そうして寄り道をしている間に、ベヒーモスズが深淵竜を屠ったことなど、当然、このときの俺は知るよしもなかった。




