第23話 可愛いお名前をつけてみました
「ふーん、悪意なき借用はこういう感じで使えるのか……」
俺が覗き込んだ先。そこではアビちゃんが楽しそうに小さくなった牛モンスターのお世話をしているところだった。
──たぶん、あれって、お世話をしてるんだよな。背中にのって、毛繕いしてあげてるように見える……
まあ、なんにしてもアビちゃんたちが仲良さそうにしてくれていて良かった。
俺はほっと、安堵の息をつく。
というのも、俺が邪視で魅了したクリムゾンベビーベヒーモスを眷属に迎えたあと、アビちゃんとクリムゾンベビーベヒーモスは互いに我関せずと言った雰囲気だったのだ。
どちらかと言えば、少しよそよそしさすら感じられた。
それはそれで、結構困った事態だった。
アビちゃんは深淵へと繋がる穴を往き来できるが、クリムゾンベビーベヒーモスは当然そういう訳にもいかず。
となるとせっかく俺の眷属となっても、クリムゾンベビーベヒーモスとの意思の疎通はかなり困難だったのだ。
そこで、ものは試しとばかりに、悪意なき借用スキルを使用してみたのだ。
行ったのは、クリムゾンベビーベヒーモスの所有権をアビちゃんに渡してみること。
すると、クリムゾンベビーベヒーモスは無事、アビちゃんの眷属となったみたいだった。そして今、俺が深淵を覗きこんでいる先で起きているような状態へとなったという訳だ。
「このスキル。とりあえずは眷属が増えた時に、眷属たちを組織化するのに使えるな。うん、一つでもちゃんとした使い道が見つかって良かった」
覗きこんでいる深淵の風景が、なかなかに微笑ましい。
それを眺めながら俺は再び呟く。
「名前、クリムゾンベビーベヒーモスはさすがに長いし、何か呼び名を決めた方がいいか。……ベビーベヒーモスで、ベベちゃん、でいいかな。可愛いし」
俺は名前をつけたので、無事に反映されるかなと鑑定スキルをベベちゃんに使用してみる。
『テイム済みモンスター:アビスベビーベヒーモス
呼称:ベベちゃん
所属:アビススライムの眷属
スキル:突進、分裂(深淵の祝福を消費)』
「お、ちゃんと名前が反映されて……あれ?」
ベベちゃんの種族が、変わっていた。
そのタイミングでアビちゃんが毛繕いを終えたようで、ベベちゃんの背中から降りるのが見える。
すると真っ赤だったはずのベベちゃんの体の色が少し薄くなり、ピンク色に変わっているように見える。
「これは……どう考えても、ベベちゃんをアビちゃんの眷属にしたから、だよね……こんな効果まであるのか」
俺はちょっと深淵から目を離してスマホを覗き込む。
「……相変わらず、情報は皆無……」
俺はスマホ片手にため息をつく。
クリムゾンベヒーモスとアビスベヒーモスのどちらが種族的に勝っているのかとか、強いのかとか、調べてみたが、全くわからなかった。
そもそも、ネットで調べた感じではダンジョンにベヒーモスというモンスターがいるという情報自体はあったものの、クリムゾンベヒーモスとアビスベヒーモスの存在に関する情報が皆無で、見つけられない。
秘匿されているのか、それか、人類がまだ未遭遇のモンスターだという可能性もある。
「あの時、見かけた探索者の人なら知ってるのかな……いやいや、あんな怖そうな人には到底きけないし。だいたい、連絡の取りようもないからな」
ふと俺が思い出したのは、野獣のような目をして、電柱に飛び上がりつかまっていた白銀の髪の女性探索者の姿だった。
しかしすぐに頭から振り払う。
「ダメダメ。そんなことを考えるよりも、せっかくだから、分裂というのを試してみるかな」
深淵の祝福を消費とわざわざ親切に表示されているのだ。これは、底意地の悪い鑑定スキルさん、推奨の案件に間違いない。
「……俺の方の深淵の祝福を使うのか、もしくは直接、ベベちゃんが深淵の果実を食べる必要があるのか、検証だな。ちょうど二つ、手元に深淵の果実があるし。おーい、アビちゃん──」
俺は、探索者のことは頭から追い出して、新しく眷属となったベベちゃんのスキルの検証にすっかり夢中になっていた。




