第2話 左目に何か映りました
ドラゴンとしか思えないものを目撃し、驚きのあまり倒れこんだ俺。その頭をよぎるのは、ダンジョンと呼ばれるものの存在だった。
数十年前に突如、世界各地に現れた、穴。
その不可思議な穴──いつしかゲートと呼ばれるようになったそれの先には、ゲームや小説で良く目にするダンジョンとしか思えない空間が広がっていたのだ。
当時、ゲートが現れたことにより、世界中で混乱が広がったらしい。まだ子供だった俺も、少しだけ当時の混乱ぶりが記憶にある。
何せ、出現したゲートを通じて各地でモンスターとしか思えないものたちが溢れ出てきたのだ。
それから数年の歳月と、数多の人的被害を経て、人類は対抗手段を獲得し、今ではようやくダンジョンのモンスターと人類の反攻は拮抗するまでになっていた。
まあ、その過程で発生した被害に起因する大不況のあおりをもろに受けたのが、氷河期世代と呼ばれる極度の就職難に見舞われることとなった、俺と同年代の世代なのだ。
「──まあ、今はそれはいい。それよりも、どう考えてもあれはドラゴン、だよな。てことは、この壁の穴は、ダンジョンに繋がっているゲート、なのか……いや、でも……」
そこまで独り言を呟いた俺は慌ててスマホを取り出すと、急いで検索する。
「やっぱり、変だろ」
検索結果を眺めて、俺は再び呟く。
世界各地のゲートはすべて、同じ一つのダンジョンに通じているというのが、今の世界の常識だった。
それも第一階層とされる迷宮のような空間の、それぞれ、バラバラな場所にすべてのゲートは繋がっているのだ。
そしてダンジョンの第一階層は、今ではほぼ踏破されていて、名目上は人類の支配域となっていた。
それこそ、世界各地のゲートから第一階層を通じて物を運び入れ、運搬し、別のゲートから運び出すことで、あり得ないほど短時間で世界各地にショートカットして物を運べる、ダンジョン物流なるものが盛んに行われているほどだった。
つまり、俺の部屋の壁の穴が万が一、新たなゲートならば、その先はダンジョンの第一階層のはずであり、ドラゴンなんて高ランクのモンスターがいるはずがないのだ。
明らかに普通ではない状況に困惑する俺を、さらに混乱させる事態が襲う。
ドラゴンのブレスを直視してチカチカしていた左目。それがようやく落ち着いたかなと左目をあけた時だった。
部屋の壁に見慣れない文字が見える。
──いや、違う。これはどうやら俺の左目にだけ、映っている!
両目を交互に閉じたり開いたりして、俺はそう確信する。
そこまで考えて、両目を閉じる。
消えさる、見慣れない文字。
俺は一度、大きく深呼吸するとゆっくりと目をあけてみる。再び現れたその文字を、俺は読み始める。
そこには、『称号を獲得しました』と書かれていた。




