第1話 壁に穴があきました
「もう、夜か……」
俺はアパートの自室の布団に横になったまま、今日も無為に過ぎていった一日を思って諦め気味に呟く。
暗くなっていく部屋。しかし、電気をつけるのに起き上がることすら、おっくうだった。
少し前までは、俺の人生は順調とは言えないまでも、それなりではあった。
新卒で、契約社員としてなんとか潜り込んだ会社。幸いなことに、そこで無期雇用になることができて、ギリギリではあるが一人でつつましくも生活は出来ていた。
そうして十年以上働いたある日のことだった。急に働いていた会社が倒産してしまったのだ。
それとほぼ同時だった。俺のなかで何か急に糸が切れたかのように、あらゆる、やる気というやる気が消えてしまった。
それからは本当に部屋から出るのすらままならず、最低限の食料の買い出し以外はほぼ部屋にこもりっきりの日々だった。
契約社員時代の微々たる給与では満足な貯蓄もできておらず、今は失業保険で何とか食いつないでいる状況だ。
しかし、その給付も、終わりが近い。
頭ではわかっている。このままではダメなんだと。動きださないといけないのだと。
そこまで考えて、ようやく俺は布団から身を起こす。しかし、それも腹のなかで暴れる空腹に耐えかねてのものだった。
電気をつける気力はやっぱり起きない。俺は薄暗いなか、狭い部屋を横切り冷蔵庫へと向かう。
「からっぽ、か……」
冷蔵庫のドアをぱたんと力なく閉めた時だった。
薄暗い部屋のなかで何か、点滅する光が目にとまる。
「壁に……穴?」
冷蔵庫から少し横の壁のやや下側。薄暗い部屋の中で、一度気がつけば見落とすことがないぐらいの明るさの光が、そこから漏れ出ていた。
──こんなところに穴なんて、あいていなかったはず、だけど?
すっかり何かをする気力を失っていたはずの俺だったが、気がつけば吸い寄せられるようにふらふらとその穴から漏れ出ている、点滅する光へと近づいていた。
──穴と言っても、本当に小さい。太い縫い針を刺したぐらいの大きさしかないな、これ。
それだけ穴が小さいと、近づいただけでは到底、向こうの様子なんてわからない。
俺は屈みこみ、片目を寄せるように顔をそちらに近づけていく。
部屋の間取り的には、穴のある壁の向こうは外のはずだ。とはいえ、さすがに安アパートとはいえ外壁に穴が空いているとは考えにくい。
そもそも、外はもう夜だ。
──となると、この光の出どころはいったいなんだ?
俺が完全に顔を壁に擦り付けるようにして片目で穴を覗きこんだ時だった。
俺の左目に飛び込んで来たのは、予想外に広そうな空間。
まるで洞窟の中の、広間のような設え。
そしてそこに、何か、とても大きな影がうごめいている。
次の瞬間だった。
その巨大な影の一部から激しい閃光があがる。
「うわっ!」
あまりの眩しさと、その眩しさで目が眩む前に見えた光景に驚いて、俺は思わず手で左目を覆いながら後ろに倒れこむ。
「──ドラ、ゴン?」
部屋に空いた穴の先で、俺が目にしたもの。それはドラゴンとしか思えない姿をした存在が、眩いブレスのようなものを吐いている光景だった。




