表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
61/64

57 木津川口砦、強襲

「緒戦は見事にやられましたな、忠興様。」

「フン。損害自体はたかが知れて居るし、あの程度で士気が砕けるほど細川の槍はぬるくないわ。」

「しかし、どうなされます?策の掛け合いでは分が悪そうですぞ。」

「大坂方の連中め、この夏の陣ではやたら小戦(こいくさ)の悪知恵が回り居る。まるで真田が伝染しているようじゃ。」

「成程、真田ですか。確かに、()()ちょっとした工夫を随所に凝らす遣り口は似て居りますな。されど、防衛側の場合は有効ですぞ。」

「ああ。上田城での2度の徳川の敗戦も防衛戦なればこそ。しかも此度は城の強度そのものが段違いじゃ。だが、だからと言って興秋を野放しには出来ぬ。」

「では………。」

「うむ。興元も粗方予想して居るだろうが、正面から白昼堂々と兵を削り合う。此れならば小手先の工夫など無意味じゃ。」

「しかし、それでは我が六千が、興元殿の千五百と相打ちに成り兼ねませんが。」

「そうはさせぬ。正面から銃撃の雨で援護して敵に好き放題の発砲を許さず砦に取りつく。」

「立花殿が使った、あの銃撃を真似ると。」

「立花殿は総構本体まで取りついた。ならば、同じことを行えば木津川口砦に必ず取り付けよう。」

「しかし、砦は落とせても、その後は戦闘不能ですぞ。」

「ああ。だから一旦国元まで戻る。戻って早急に再軍備して戦に復帰する。幸い、我が領土がある九州は明にも近く、南蛮船の来航も見込める。少し無理をすれば冬になるまでに戻って来れるだろう。」

「成程。それであれば、将軍家とて不満には思われますまい。」


小考して忠興が云う。


「将軍家…秀忠殿か。はたして世評の戦下手は本当か。」

「違うとお考えで?」

「そこまでは言わぬ。だが、関ケ原に遅延した上田の戦、あれは秀忠殿以外の誰であっても釣られたのではないか。お主が大将だったとして、自分なら釣られないとは言い切れまい。」

「それは………確かに。」

「あの時期の真田の親父(真田昌幸)を大軍を以てアッサリと踏みつぶせる者が居たとすれば………」

「………居るのですか?」

「…それこそ、立花宗成に一万ほど預けた場合なら、もしや…とは思うのだ。」

「…確かに。それで立花殿の戦ぶりを真似ると。」

「他に手立ても無いしの。」


話し終えた二人の脳裏には、秀忠の実力への僅かな再評価が澱のようにこびり付いていたのだった。


///////////////////////////////////////////////////////////


「………これは………興秋様………」

「ああ、判っている。父上らしいわい。真正面から全力で来るぞ。」

「ひどい戦になりますな。」

「これでいい。やっと真田殿が望んだ結果になりそうだ。」

「兵達は如何されますか。」

「重傷者は即座に城まで退避させる。千五百の兵が五百まで減ったら全軍撤退だ。」

「撤退できますか?」

「装備も武器も捨てて良い、身一つで一目散に大坂城まで走らせる。撤退の時期だけ本営で決めるが、撤退の仕方は予め組頭迄だけ伝達して置け。」


指示を受けて使い番が各組に出される。


「われらはギリギリまで此処、物見櫓から降りられませぬな。」

「撤退の時期を見間違えると全滅だ、ここは譲れん。」

「仕方ありませぬ。取り敢えず、此処にも鉄砲を。」


米田監物が物見櫓にも鉄砲を持ってこさせる。上から打てる限りの援護を行うというのだ。


「此処にも銃火が集中するぞ?」

「そうすれば、それだけ兵の負担が減りまする。」

「監物の云う事よ。」

「あの大旗には負けまする。」


この期に及んでも『細川興秋此処に在り』の大旗は物見櫓の上に翻っていた。


「あの旗は置いていくしか無さそうだがな………」


ブォ~ブォ~ブォ~~~~


その時細川軍仮本陣から法螺が成り、全軍が並足前進で動き始める。単縦陣でそのまま前進して真正面から迫って来る。


「もうすぐ鉄砲射程に入ります!」

「敵陣先頭は盾兵!その直後に鉄砲兵!」

「敵陣の盾兵と鉄砲兵は数段に編成されて居る模様!」


ドーン、ドン、ドーン、ドーン


ついに双方の鉄砲が火を噴く。櫓の上の監物も撃ち始めていた。


「敵第一列止まります、その場で射撃に徹する模様…あ、いや!…第一列の間から第二列がすり抜けて前進します!」


報告を聞いて細川興秋も身を乗り出し確認する。


「第二列、すぐに停止。射撃戦に入りますっ…い、いや、またその隙間から第三列出てきます!…こ、これは……これは繰り引きの逆です、繰り出し、そう、繰り出しですっ!」


細川興秋と米田監物が目を見合わせる。


「やってくれる。繰り引きは幾度も見たし自分も実行したが、まさか繰り出しとは。」

「何が何でも間合いを詰めて手詰めの戦に持ち込む腹ですぞっ!」


鉄砲を撃ちながら監物が応じる。


「それならそれで、近寄るまでに削れるだけ削り取ってしまえ!」


接近するに従い、盾を貫通する銃弾が増え、盾に守られていない部分に銃弾を受けた細川兵が倒れ、少しずつ兵が削れて行くが、後列がすぐに前に出るため、細川勢全体の圧力は増すばかりだ。


チュイーン


「うおっ…と………」


物見櫓の監物周辺にも銃弾が掠めだす。当初優勢に射撃していた砦側だったが、距離が詰まり攻め手が正確に銃眼を狙えるようになると砦側の射撃も困難になりつつあった。


「くっ、もうすぐ取りつかれる。鉄砲衆は遊撃まで下げろ、槍兵前に、鉄砲衆は槍衆の隙間から狙撃!」

「むぅ、興秋様、此処からの銃撃ももう、難しゅう御座る!」

「狙うな、適当に撃て、銃火だけ光らせておけば、細川兵も櫓を撃ち続けねばならん!頭や顔は出すな!」

「承知っ!」


ドーン、ギャイーン…ギャン、ドーン、ギーン---


戦場に鉄砲の音と金属がこすれ合う音、鎧の擦れ合う音が木霊する。時々兵があげる悲鳴も交じるようになる。


「槍衆、2の組と交代だっ!、3の組は待機できているなっ、1の組で無事な者は後方に下がり次の組を造れっ!疲れて動けなくなる前に交代しろ!」

「細川兵、引きません、負傷者を撃ち捨てて只管かかってきます!」

「くっ、流石忠興様、腹を据えた大殿は揺るぎませぬなっ!」


それでも隙をみて鉄砲を打ち込みつつ古巣を称える米田監物。


「フン。とにかく前進を優先しているので退路が無いだけであろうが…なっ…!」


隙を見て投げ槍を眼下に投げ込み応える細川興秋。

双方血で血を洗う接近戦は四半刻(約30分)ほど続いていた………




「ど、どうだ、監物、そろそろでは無いか。」

「もう、十分でしょう……」


頷き合った二人は最後の命令を出す。


「全軍、撤退!取り残されるなっ!」


云うや否や、細川興秋と米田監物も櫓から飛び降り雑兵に紛れて逃げ出す。細川兵も追いすがるが装備をすべて捨てて身軽になった守備兵は急速に大坂城の鉄砲射程内に逃げ込んだため、打ち取られた兵は僅かだった。


/////////////////////////////////////////////////////////////


「興秋め、逃げおおせたか。」


ほぼ、半壊状態の木津川口砦へ足を踏み入れた細川忠興。その足元には忠興に踏みにじられた大旗。

忠興は撃ち捨てられた装備を漁る細川の雑兵を見ながら心底口惜し気に呟く。


「此処は大坂城にも程近いですからな。身一つになれば一気に掘際まで走れまする。」

「興元、敵はどれ程打ち取った?」

「………そうですな、打ち取ったのはせいぜい百か二百でしょうな。ですが、その倍はそこそこの重傷でしょう。」

「此方は?」

「死傷者は千以上。それと鉄砲は弾薬が底を尽きました。」

「ではひとまず下がらねばならぬな。」

「はい。此処の交代は誰に?」

「左翼に浅野殿が入って居る。浅野殿の与力の山内が付近に屯しておろう。二千程度の兵力だ、此処の守備をさせるに丁度良かろう。」


山内と呼び捨てで呼ぶ当たりに山内に対する細川忠興の心象がにじみ出ている。当時山内家は国元の土佐の仕置きに失敗しており、本来二十万石の石高で動員有るべき四千~五千が動員できず、二千程度の兵力だった。また、とくにめぼしい軍功も山内家として見受けられないため、安土桃山時代の激動真っ只中を走り抜けて来た細川忠興から軽く見られていたのだ。


「………成程………山内………ですか。」

「不満か。」

「いえ。丁度良いかと。」


中途半端な兵力を見て、城方が逆襲して山内勢を磨り潰すかもしれない。だが、それなら純粋な野戦になり、次々増援を送り込めば自然と幕府が勝つ。かりに勝ち逃げされた場合でも、失うのが山内勢であれば大した痛手でもない…そういう共通認識が細川忠興と細川興元の間で暗黙のうちに共有されたのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ