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46 柳生の草

島津家久(又八郎忠恒)18代島津家当主

島津4兄弟の家久とは別人。島津義弘の三男。薩摩少将とも。中納言。

1609年には琉球へ侵攻し降伏させる実績も上げている。

毛利家本拠、萩。このころ、すでに毛利家の本拠地は広島から萩に移されていた。

一説には、毛利家の復活を警戒した江戸幕府が商業立地上有利な広島や山口より、日本海側の僻地とされていた萩を指定したとも云われている。

すでに先発隊である毛利秀元は大坂へ出立していたが、主力を率いる毛利秀就、また、幻庵宗瑞と名を変えていた毛利輝元も未だ萩に留まっている。

この萩城に堂々と柳生を名乗る回国者の一人が現れた。


「某は柳生宗冬、江戸幕府の命を受け、諸国を回国しておる者。既に出陣の命は届き居る筈だが、ご城下はいたって平穏で軍編成の気配が無い故、ご当主殿にご説明願いたく参上したもの。毛利殿にはいかなるご存念也や?」


この威丈高(いたけだか)な口上に、毛利家中は色めき立つ。が、毛利両川(小早川隆景・吉川元春)顕在な頃と異なり、すでに幾多の試練を経験した幻庵宗瑞(毛利輝元)は気にもせぬ風で、


「それはそれは、ご苦労な事。なに、軍勢は出撃に便利な周防国の三田尻で編成中で御座れば、この萩は静かなものでござるよ。それに既に先鋒の秀元は出立済で御座る。秀元は浄明院殿(松平康元・娘)を後添えに娶り、その口利きは家康殿で御座れば、その戦意は疑いようも無し…と存じますぞ。」


家康を引き合いに出されては宗冬もこれ以上虎の威を借る訳にはいかない。

捨て台詞と云わんばかりに、


「左様か。ならば早々に三田尻とやらへ向かわれよ。ではこれにて御免。」


余りの横柄さに呆れかえる毛利家家臣。

だが、幻庵宗瑞(毛利輝元)の腹は寧ろ喜びに近い。


(あの家康も、どうやら足元が腐ってきて居るようじゃ。関ケ原の失地も幾ばくかは回復の目もあるか。)


そして、終始無言だった毛利秀就。その口の端が僅かに緩んでいる事には誰も気付かなかった。


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こちらは肥後と薩摩の国境、俗に「境」と呼ばれていた(せき)。のちの時代には「野間の関」と呼ばれるようになる。その関所にも柳生の回国者が訪れていた。


「某は木村 友重、助九郎と呼んでくだされ。この度幕府の命を受け柳生の回国者が諸国に派遣され、各国の状況を報告するように申し受けておりますれば、ご領内の通行を許可願う所存。」

「幕府ん………暫しお待ちくだされ。」


門番が慌てて上役の元へ走る。


(ふむ。とくに好戦的な様子も無い。何かの機会に反乱を起こすのではないかとの危惧は杞憂であったか………。わざわざ儂が来る迄も無かったやもしれん。だが島津相手では並みの者では()()()の時には報せを持ち帰る事はできん。政も大切だろうが、宗矩様ももう少し武に立ち返って頂かねば困るのだが。)


「こんた助九郎殿。ようぞ遠路参られた。中納言様(島津家久、初名は又八郎忠恒)から幕府ん使者が参られたおりりには極力ご不便な思いをされんごつ持て成せと、予て命じられちょりますりゃ、ご安心くだされ。」


頷く助九郎。だが、


(これはいかぬ。恐らく江戸者でも理解できるように、精一杯気遣ってやっとこの言葉だろう。堂々と正面から入国したから良いものの、潜入などすれば一瞬で余所者と露見してしまう。生間[一般的な潜入する間諜]を送り込むのは無理だな。だが草を造るにしても、始終張り付いて持て成されていては、それも出来ぬ。とにかく、今、自分で持ち帰れる情報をかき集めるしかないか………。)


「如何なされもした、助九郎殿。どっか具合でん悪かとやろうや?」

「いやさ、流石に南国、この暑さは別格で御座いますな。」

「ああ、暑さに当てられもしたか。そんた仕方ありもはんなあ。まあ、ゆっくり薩摩をご検分くだされ。そうそう、最近採れ出したあめ芋がごわす。上方んしにも結構喜ばれもしたで、食さるっるか?」

「ほう、芋とな。それはぜひに。」


話が纏まり出水城で供応を受ける事になった。城とはいえ薩摩の外城は小規模の山城だ。通常は麓の武家町で過ごすのでさほどの苦労もなく居館に案内された。


「こいがそん芋で御座っ。」

「ほう、どれどれ………うほ、ほんに甘い。」

「良か芋で御座いもんそ?こん芋は、なんとシラスでん育つ。収穫量も多かごたって余った芋で酒も造ろうと、今、仕込みが各地で始まっちょいもすぞ。」

「なんと、有り余る程とは、素晴らしい。」

「もう薩摩も大隅も飢ゆっ心配は無うなったも同然。戦に出っ事もいっきのうなりもんそなあ。」

「うむ。それは良き事かな。」


(薩摩の強兵も飢えぬとなれば、この地からわざわざ出る意味もなし………か。取り敢えずは上方へ大兵力を送って大坂を支援する事はあるまい。)


助九郎は薩摩動く気配なし………と結論して肥後へ帰っていくのだった。

日向側になる、大隅の志布志に、まさかの大造船所が出来ていようなどとは夢にも思わずに。


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徳川家康、陣所。今日も此処には耳太の組が張り付いていた。


(ほう、今日は珍しい組み合わせだな。入って来たのは柳生宗矩とは。だがこれはいかぬわ。)


宗矩を見た耳太はすぐに内通している伊賀者を傍に引き寄せる。家康を守護待機している風を装わせるためだ。

そして自分は一切の気配を消し耳だけを(そば)だたせ目も閉じる。

一瞬遅れて天井を一瞥した宗矩だが、伊賀服部組の気配に納得して家康の前に平伏する。


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「柳生宗矩、お召しにより参上致しました。」

「うむ。偲びじゃ、楽にせい。」

「は、有難く………。」


暫く宗矩を見つめていた家康が(おもむろ)に尋ねる。


「大坂の動きに異変は?」

「は、特に目を引く物はありませぬ。ただ、手隙きの者を使って淀川南岸付近を整備して居る様子。」

「?南岸…のう………それは?」

「意図は定かには見えませぬ。ただ、小舟も集めている様子なので、臨時の物資搬入路でも模索しておるのやら…程度としか…。」

「……無いな……。冬の陣でも淀川北岸一帯は我らが抑えている。淀川を搬入路に出来ぬ事ぐらい大坂方とて重々承知の事よ。上流の今福などの砦も抑えるので猶更にな。」

「やはりそうですか。我らも意図が掴めず、まるで先の図が判りませぬ。」


小さくため息をつく家康。だが自分でも読めぬ先の事を宗矩が見える筈もなし………と気を取り直し、話題を変える。


「大坂の出入りはどうじゃ?」

「は、当然ながら、西国向けの使者は多数出て居りました。勿論、今は止んでおりますが。」

「西国自体は何か変わりは有るか。」

「特段に奇異な事はありませぬ。目に着くのは造船。各国それぞれの規模で力を入れだしているぐらいでしょうか。」

「ふむ、船………のう…。領地を広げる事が難しくなった今、大名自ら交易に乗り出す事など珍しくも無いが………。ちと引っかかるか………。」

「は…。さらに薩摩大隅については、我ら回国者も入り込み難く、草も作るに作れませぬ。」


柳生の草は最近に宗矩が必要を感じて諸国に作り始めた、現地人による柳生の協力者の総称だ。伊賀者のような組織はなく、個々の回国者の伝手との関係を深めて個人的に取り込みつつある末端の諜報員。だが薩摩大隅を領する島津家の住民は言語が大きく異なるため、潜入はほぼ不可能、草どころか堂々と正体を晒して見聞きする回国者ですら送り込む人材に苦慮しているので、柳生四天王の一角の木村友重を送るしかなかったのだ。


「そこを調べ上げるが()()の役目じゃ。」

「されば、此度は我が四天王の一人、木村友重を送り込みまして御座います。また、毛利にも我が縁戚の者を派遣しておりまする。」

「うむ。そうでのうてはのう。で?」

「結論として、毛利・島津に反乱の気配は皆無とのこと。ただ、」

「ただ?」

「島津では芋栽培が急速に普及しておる様子。」

「………芋などどこでも造っておる。」

「それが、薩摩の痩せ地でこそ、不思議によく育つ変わり者の芋のようで………。」

「なんじゃ、それは。言葉もわかりにくければ、芋まで変わり者とはの。」

「その芋が為、戦どころではなく、領内挙げて只管(ひたすら)芋造りに邁進中…とのことで。」

「はっはっはっ。そうかそれは良い。芋造りで忙しくて戦などやって居れぬか。」

「まことに。」


かくて、家康の意識から毛利と島津の存在は希薄となるのだった。



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― 新着の感想 ―
夏の陣が起きる1615年に柳生十兵衛はまだ8歳ですね。連也斎に至ってはまだ生まれてない?
文章すべて切ってしまうようで申し訳ないですが、この頃の広島領主は福島正則だったような?
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