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44 陸奥勢去る

茶臼山家康本陣。今夜も耳太の組が家康に張り付いていた。

(ほう、今夜は最近に無く、幕府の連中の意気があがって居るな。昼に総構に取りつけたので手応えを感じたか。家康は………いつもの能面だな。おや、今日は家康の横に本多正信も付いている…なにか動きがあるのか?)


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「いや、流石、古今無双の左近将監(立花宗成)殿。真正面からあの大坂城の総構に取り付けるとは、この榊原康勝まで余禄に預かり申した。」

「まっこと西国一の弓取の呼び声も納得の奮戦、三左衛門(仙石忠政)も間近で学べ申した。」


云われた立花宗成の方は、さほどの感慨も無い様子で。


「巨城と云えども、接敵する面自体は限られて居りまする。通常通りの城攻めは普通にできまする。」


そこに佐竹義宣 が割って入る。


「いやいや。あのような猛射は立花殿なればこそで御座る。我らも必至で真似るべく撃ちまくり申したが、とても真似からは程遠かった。」


さらに上杉景勝までが、ぼそりと呟く。


「古今無双。」


パン、パン、と柏手が成り、本多正純が場を仕切る。


「皆様、ご歓談中ですが、軍議を始めまする。すでにご存じの通り昼間の戦いでは正攻法で見事大坂城に取りつきました。よって、明日も同様に攻めて戴きたく。如何でしょうや。」


横に居る藤堂高虎がチラッと家康を見るが、家康は能面のまま、なにやら本多正信と小言で話込んでいる。


「勿論だ。我が名古屋勢(徳川義直)に異存はない。」


大坂城南面に配置されはしたが、最先鋒で無い徳川義直には最前線の状況が正確に伝わっていない。反射的に安請け合いしてしまう。


「立花殿は如何で?」


ここでも空気を察することが出来ない正純が普通に話を振ってしまう。


「勿論、無理で御座る。」


一気に凍り付く場。しかし、立花勢と共に最前線にいた酒井家次、榊原康勝、新庄直定、仙石忠政達が間を置かず立花宗成に賛同する。


「我らも立花殿同様、無理と云うもの。弾薬が有りませぬからな。明日は本日の戦に参加されていない予備兵力の方々に代わって貰うか、消費した銃弾火薬を回してもらわねばなりませぬ。」

「銃弾に火薬で御座いますか。」

「然り。」

「それはいか程に?」

「酒井隊は3貫は必要ですな。」

「我が榊原隊は4貫は使い申した。」


結構な量に正純の顔が青くなる。


「た、立花殿は?」

「6貫。」


諸将から驚きの声が上がる。だがそれは当然で、酒井隊や榊原隊の数倍の密度で城方を撃ちすくめたからこそ、総構の堀に取りつけるまで進出できたのだ。


「それほどの量はとても調達できませぬ………。」

「でしょうな。されど、我が立花の武はお示し出来たと思いますれば、一度国元に戻り銃弾火薬を補充の後、改めて上坂するしか無いと考えまする。玉切れの隊など、只の穀潰しで御座れば。」


確かに兵糧の消耗を考えれば国元に返すしかない…諸将も大方が納得した頃合いに伊達政宗が名乗をあげた。


「では、我ら陸奥衆も一旦国元へ帰るとしましょうぞ、佐竹殿、上杉殿。」

「うむ。」

「それしか御座るまい。」


慌てて言い募る正純。


「お、お待ちくだされ伊達殿。伊達殿は如何ほど撃ちなされた?」

「さあて、万余の部隊が撃ちまくりましたのでなぁ…最低でも10貫や15貫は余裕で御座ろうなぁ。」

「我が佐竹とて、6貫は撃ちましたな。」

「6貫。」


佐竹と上杉の6貫はやや大げさと思える量だが、元よりザックリとした量でしかない。云われた量を嘘と断ずる事は誰にもできない。

困り果てた正純が横の藤堂高虎を見る。


「しからば、陸奥の方々には国元へお帰り戴きましょう。3万程度が減りますが、7万対12万。野戦になれば十分勝利出来ましょう。」

「理解が早くて助かる。では我らはこれにて。」


アッサリ云い捨てて座を立つ伊達政宗。続いて佐竹、上杉も立ち、さらに立花宗成も軍議から去っていった。


「なんだ、あの態度はっ!」

「あのような我儘をゆるしていては幕府の沽券に関わるぞ。」

「…だが。現実に、冬の陣では一指も触れられなかった総構の堀にまで取り付けている。正攻法で取りつくには、それだけの銃火の援護が必要という事だ…。」

「そんな調子で火薬を使っていたら半月で火薬が底を突くわっ!」

「正面から攻めるのは無理だ。遠巻きに包囲するしかあるまい。3万減って兵糧にも多少余裕が出来た事だしな。」


暫く隙に喋らせていた高虎が手を上げて場が鎮まるのを待つ。程無くして鎮まった頃合いに、家康に向き直る高虎。


「短兵急な攻めは無理で御座れば、包囲に切り替え、冬の陣同様大坂城周囲の砦を落し兵糧攻めに一旦切り替えまする。」


黙って頷き、続けろと顎をしゃくる家康。


「では、大阪城南面の最前線は義直様の名古屋衆にお願いいたし、酒井殿や榊原殿は義直様と入れ替わり下がって頂き、大坂周辺で火薬の補充に励んでくだされ。」


これなら酒井家次や榊原康勝にも異存は無い。即座に頷き承諾する。


「大坂城への嫌がらせは北の池田殿に動いて頂きましょう。先ずは大坂城北東、大和側沿いの今福砦と鴫野砦。その後、大坂城西の土佐堀砦や阿波座砦などに転戦して頂く。大坂城南西にある木津川口砦は多少の抵抗があるやもしれませぬので、此処は浅野殿にお願いしたい。」


浅野幸長の跡を継ぎ当主となっていた浅野長晟にも異存はない。もとよりこの方面の旗頭を自認している。鷹揚に頷き承諾の意を顕す。


「陸奥勢が抜けた大坂城東は如何する?」

「東で御座るが、西で異変が起き衝突になった場合、東が主攻に化けるやもしれませぬ。よって、此処には松平忠直様。福井の強兵を以てその時に備えて戴けませぬか?」


福井勢は先代の猛将、結城秀康が鍛え上げた強兵で、この時期でもその精強さは失われていない。ある意味幕府の切り札の一つである。


「ふむ………成程、高虎の思惑もなんとなく見えて来た。良かろう、東に回り待機しよう。 」

「宜しくお願い致しまする。」


そう言って高虎は横の正純に目配せして軍議を締めさせる。


「では、各々方、明日も宜しくお願い致す。」


こうして幕府軍も一応の纏まりを取り戻したのだった。

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