健康の自信
彼は自分が健康であることを自負していた。子供の頃から風邪を引いたことも無い。それは大人になってもであった。
しかし、最近になって、自分の健康に自信が持てなくなった。
何故ならば、眠って起きると、鉛筆で書かれた紙がそこら中にあるのだから。
夢遊病か何かなのだろうか。それとも誰かの悪戯なのか。しかし、紙に書かれている筆致は彼そのものの走り書きである。
となると、誰かの悪戯と言う可能性は無い。彼の筆致は独特のものであるゆえに。
彼は見覚えのない筆致について読んでみることにした。
それは過去に起きた出来事だった。まるで知っている情報を書き散らしたような。少し、不気味に感じていた。そして、そこには近い未来のことが記されているのに気づいた。
ある町の町長が何者かに殺され、町の条約が変更になり、自由が生じること。
ある町のベンチから宝箱が見つかり、開かずの宝箱と呼ばれるようになること。
ある町の図書館には月光が照らす夜には怪物が出るから、誰であっても立ち入り禁止になること。
そして、彼が住んでいる町で、昼間なのに藍色の雨傘を差している女性のこと。
すべてがそこに書かれていた。有り得ないと一蹴するにはできないのが、紙に書かれているのである。
健康が取り柄の彼にとって無意識下で生じることは恐怖でしか無かった。夢遊病にしては、予言めいていて怖くなった。
今夜はどんなものを書き散らかすのか。鉛筆やシャーペン、ボールペンならまだ良い。
書くものが無くなればそれが一番良いのだから。
しかし、何も無いとすれば、自分の血文字で書き綴る気配がしてならない。
その時の彼はもはや健康ではない。夢遊病と言う名の病人へと成ってしまうのだからーー。




