妄執
妄執に囚われてしまうのは哀れなこと。手放してしまえば楽に言うのに。
何故に、彼は、彼女らは囚われてしまうのだろうか。
鳥籠の手錠に繋がれていると知らずに。黒鳥の焔に焼かれながら。
魔女と呼ばれたマキナは光を嫌った。全てを錆び付かせて魂を機械に宿らせたのだよ。そして軋みながら呪文を唱えた。召喚の魔法を二つほど。
幻影の騎士に守らせて、光は影を喰らう歌姫に与えて。彼らの記憶は妄執の中に。
壊れてしまった時計塔の中に彼女たちは住んでいる。番人は魔女の臣下。逆らい、抗うことは許されないのだ。
どれだけ、過去に縋ろうが変わることは無い。崩壊を止めることはできない。
だから全てを、時を止めることによって、守ろうとしたのだ。彼女の王国を。
影を喰らうことによって魔力を得て、時を止め続ける。凍てつかせる。
そうでなければ、時は進んでしまう。幸せは崩れ去ってしまう。手にしていたはずの全てを永遠に失ってしまうのだ。
哀れにもマキナは、否、リリス・バビロニアは幻想の中に永遠に囚われることを願い望んだ。
入る者は許すが、出る者は許さないという風にして。
されど、仮初めの永遠は終わりを告げる。
一つの星が降ってくる。そして、幻影の騎士は記憶を取り戻す。失われたものを取り返すために。その身が灼かれようとも、黒鳥を屠ることになろうとも。歌姫に喰われようとも。騎士としての誇りを宿すのだ。
まるでそれは閉ざされた本のページを捲るようにして進みゆく。幻影と幻想は違うのだ。
古書のページは捲るようにして進みゆく。読まれているのか、遊ばれているのか。知る由も無い。
残念なことに彼女のリリス・バビロニアのページは図書館に収められたのだ。廃墟の図書館に。星が降り注ぐ間だけ、存在することが許されている。そして、降り終われれば、魔王同士の戦いの果てへと堕ちて行く。その時まで彼女は踊るのだよ。幻影幻想に縋りながらー-。




