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伝達

 彼は病気だった。声が出ない病気。医者が言うには、心因性のものだそうだ。

 元々、彼は自分の声にコンプレックスを抱えていた。どんなに声を出しても、かすかな声。

だから彼は身振り手振りで伝えることにした。手話も覚えようとしたが、なかなか覚えられなかった。

だが、彼は諦めなかった。声が出せず手話も駄目なら、文章で伝えれば良いのだと思ったのだ。

 手紙という形で色々と書いていった。様々な物をである。しかし、彼の手は思うように書いていったが、問題が生じた。

腱鞘炎になってしまったのである。このままでは手書きで書くことは難しい。痛みが邪魔をしてくるからだ。

なら、どうすれば良いのか。彼はそのことを考えて、一つの結論に至った。

電子機器。スマホやタブレット、パソコンなどを扱えば良いのだと。

そうすれば、指の負担も軽減されるし、書き続けられると思ったのである。

 メールやLINEなども使って、相手に自分の気持ちや考えを伝えていった。

後には中古だがパソコンを購入して、キーボードに打ち込み始めたのである。

 彼の文章力に目を付けた友人の一人は、彼に小説を書くことを勧めた。お題に沿って書くことをである。

そして彼は友人の勧めに従い、お題に沿って短編を書いていった。

 影との対話を主軸にした「影の中のもう一人の自分」。隣人の奇妙な騒音をテーマにしたミステリーなど。

とにかく思いつくままに彼は小説を書き溜めていった。

 そして、彼は自分の半生を綴ったエッセイを書いた。自分が心因性による声が出ない病気であることを。

 そうして、いつしか彼の作品は何百もの物語となっていった。

お題を一つ一つ大切にしながら。彼独自の切り口で、書いていったのである。

 時には、雷による停電でパソコンが使えない状態になることもあった。

しかし、彼は書くことを諦めなかった。スマホやタブレットなどのメモ機能を駆使して書いていったのである。

 今も彼は心因性による声が出ない病気と闘っている。しかし、文章や作品を通して語り、叫んでいる。

彼の声は無視されることもある。無関心さによって。それでも、彼はへこたれない。

 書くことが、書き続けることが、彼が持つコミュニケーションなのだからーー。

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