記憶
気がつくと私の手には小さな鍵が握られていた。
それがどこの鍵なのか分からない。扉を開くための鍵だろうか。それとも、宝箱を開けるための鍵なのだろうか。
私の目の前には、一つの扉と一つの宝箱が有る。普通ならば扉に使うだろう。この部屋から脱出するためだ。
しかし、私は一つの誘惑に駆られてもいた。それは宝箱である。
盗賊のようにピッキングなんて器用な真似は持っていない。と言うか、そのための針金なんてものもない。ゲームじゃあるまいし。いや、これもよく考えたらゲームかもしれない。第三者から見たゲーム。鍵を持った私がどちらかを選択するのかという、一種の賭け事のようなもの。まるでルーレットの赤と黒どちらかという、運命の一手。しかし、スルーできないもの。
私はどちらを選べば良いのだろうか。理想のシナリオを脳内に描いてみる。
宝箱を開けて、その中に鍵が入っていたら良い。その鍵で今度は扉を開ければいい。
それか宝箱を無視するのも手かもしれない。誘惑を断ち切るという覚悟が試されるが。
私はようやく決断した。宝箱を開けてから扉を開くことを。
そして私は宝箱の鍵穴に鍵を差し込んだ。すると。中に入っていたのは外れと書かれた一枚の紙切れだった。
くそ、失敗してしまった。扉に差し込んでいれば結果は違っていたのかもしれないのに。
だが、宝箱の中をよく見てみると、紙切れにしては不自然な膨らみが有った。外れの紙を剥ぎ取ってみるとそこには鍵が一本有ったのである。
何という二段構えの罠なのか。これを仕組んだのは意地が悪いに違いない。
私はそう思いながらも、一つの達成感に浸ってもいた。隠された謎を解いた気がしたのである。
そして、迷わず私は扉に対して鍵を差し込んだ。これでようやく脱出できる。
しかし、私は気づいてしまった。どうして私はこんなところにいたのかを。
その記憶の曖昧さが私を不気味な感覚に陥らせたのであったーー。




