第7話 強化
俺たちは森を出る。帰り道、リゼットはずっと喋っていた。
「それでね、魔法学院には凄い先生がいて! その先生が昔、古代魔法を研究してたんだけど――」
「古代魔法を?」
「そう!」
急に目を輝かせる。
「今では失われた魔法なんだけど、資料がいくつか残っててね!」
「本当に詳しいんだな」
「魔法の話ならいくらでもできるよ!」
「さっきからずっと喋ってるもんな」
「だって好きなんだもん!」
リゼットは楽しそうに笑う。
「カイムは何が好き?」
「俺?」
「そう、カイムは何が好きなのかなーって」
「うーん……特にないなかな」
「えー? そうなの?」
「冒険者になる前は普通に村で暮らしてたからな。特にこれといったものもなく」
「そっかー。それなら、これから見つければいいよ」
「これから?」
「そう」
リゼットが前を向く。
「冒険者なんだから、色んなところへ行けるでしょ?」
「…………」
確かにそうだ。今までは4人で行動することばかり考えていた。でも、これからは違う。自分の好きな場所へ行って、自分の好きなことをすればいい。
「そうだな」
少しだけ、楽しみになってきた。王都へ戻ると、俺たちはそのままギルドへ向かった。
「確認しました。依頼達成ですね」
受付のお姉さんが魔石を確認する。
「あら、ホブゴブリンまで討伐したんですか?」
「はい」
「まさかお一人で?」
「いや」
俺は隣を見る。
「今回はこの子と一緒に」
「この子じゃないよ」
リゼットが口を挟む。
「リゼット。リゼット・アークライト」
受付嬢がリゼットを見る。
「では、お二人で討伐されたということで?」
「そうです」
「それなら、パーティ登録もできますが……」
「パーティ?」
俺が聞き返す。
「はい。お二人で活動されるのであれば、パーティを組んだ方が依頼も受けやすいですよ」
「なるほど」
俺はリゼットを見る。
「どうする?」
「決まってるでしょ」
「え?」
「組もうよ」
「いいのか? そんなにあっさり」
「断る理由もないからね」
リゼットはふふっと笑った。
「私も1人より2人の方が楽しいしさ」
「そっか。俺もそう思うよ」
俺は受付嬢へ向き直る。
「お願いします」
「はい。それではパーティ名を決めてください」
「パーティ名?」
すぐには思いつかない。
「どうする?」
俺がリゼットを見る。
「カイムが決めていいよ」
「俺が?」
「お好きにどーぞっ」
「そうだなぁ」
少し考える。幼馴染たちの【星の剣】みたいに格好いい名前なんて思いつかない。
「とりあえず、仮でいいんじゃないか?」
「ダーメ」
「なんでだよ」
「せっかく初めて作るパーティなんだから、ちゃんと決めよーよ」
「そんなこと言われてもなぁ」
「じゃ、宿に戻って考えよ」
「宿?」
「そうそ」
リゼットが笑う。
「今日から私も同じ宿に泊まるから」
「…………」
「どうしたの?」
「ああ、いや、行動が早いなと思って」
「思い立ったらすぐ行動! 考えるより動くべし!」
「のうき、あっいや、……本当に魔法学院の生徒なのか?」
「失礼だなぁ!」
俺たちはギルドを出た。昨日までとは違う。1人だった俺の隣には、もう誰かがいる。
「まあ、悪くはないな」
「んー? 何が?」
「いや、何でもない」
その日の夜。俺たちは宿の食堂でパーティ名を考えていた。
「そうだねぇ……【炎の魔導士】とかは?」
「リゼットが魔法使いだから?」
「そうだよーん」
「はい却下」
「何で!?」
「俺が入ってないじゃん。パーティじゃなくてリゼットのソロになっちゃうじゃん。パーティ名じゃなくてソロ名だよ。ソロデビューすんの?」
「むむむ……じゃあ【最強バッファーと天才魔法使い】でどう?」
「うん、長すぎるね。語呂も悪いね」
「じゃ、じゃあ【天才と天才】は!?」
「俺は天才じゃないし、シンプルにダサい」
「カイムは天才だよ」
「えぇ……」
不意にそう言われて、少しだけ恥ずかしくなる。
「まあ、今日はもうここまでにしよう」
「えー」
「明日また考えよう」
「ん〜……わかった」
リゼットが残念そうに頷く。そのときだった。
「あっ」
リゼットが何かに気づいたように声を上げた。
「カイム。ちょっとだけ、私にバフをかけてみて」
「リゼットに? 何をするんだ?」
「試したいことがあるの」
リゼットの目が輝いている。
「私がどこまで強くなるのか」
「…………」
少し興味が湧いた。
「そりゃ面白そうだな」
「でしょー?」
俺はリゼットへ手を向ける。
「じゃあ、いくぞ」
「どぞー」
「【強化】」
その瞬間、リゼットの身体を淡い光が包んだ。
「…………」
リゼットが目を見開く。
「何、これ……! 魔力が……」
リゼットの手が震える。
「溢れてくる。こんなの……初めて!」
リゼットは自分の手を見つめる。そして――。
「カイム、明日、私と一緒に魔法を試して」
「んーまあ、別にいいけど」
「絶対だからね」
リゼットは笑った。でも、その目には明らかな興奮が宿っていた。
「あなたのバフがあれば――」
そこで、リゼットは言葉を止めた。
「……いや」
「?」
「明日になればわかるよ」
リゼットは意味深な笑みを浮かべた。




