第5話 邂逅①
翌朝、俺は王都の門を出ていた。昨日受けた依頼の目的地は、王都から少し離れた森。そこにある洞窟を根城にしているゴブリンの群れを討伐する。依頼書にはそう書かれていた。
「へぇ、ゴブリン退治か」
昨日のウルフよりは強いだろう。それでも、今の俺なら問題ないと思う。自分に【強化】を使ったときの力は、昨日の戦いである程度わかった。身体能力が大幅に上がる。力も、速さも、かなり強くなる。ただ――。
「どこまで強くなるのか、まだわからないんだよな」
俺自身に使う【強化】。昨日は1回しか試していない。もしかすると、まだ力を出せるのかもしれない。
「まあ、戦ってみればわかるかな」
俺は森へ向かって歩き始めた。しばらく歩くと、木々が増えてくる。森の中は静かだった。風で葉が揺れる音しか聞こえない。
「静かすぎないか?」
少し嫌な感じがする。ゴブリンがいるなら、もっと騒がしくてもおかしくない。俺は周囲を警戒しながら進んでいく。すると、遠くから何か聞こえた。
「誰かいるのか?」
耳を澄ます。
――ガサッ!
茂みが揺れた。俺はすぐにそちらを見る。
「魔物か?」
だが、出てきたのは魔物ではなかった。1人の少女だった。
「はぁ……はぁ……ごほっ」
少女は息を切らしながら、こちらへ走ってくる。
「ちょっと助けてくほしいかも!」
「え?」
突然そんなことを言われて、俺は固まった。少女の後ろを見る。すると——。
「グルルル……!」
「あ」
魔物がいた。しかも1匹じゃない。
「ゴブリンか!」
3匹のゴブリンが、少女を追いかけている。少女は俺の後ろまで走ってくると、その場にしゃがみ込んだ。
「お願い! 流石にゴブリン3匹はきつい! 助けて……ほしいかなって!」
「わかった! 任せろ!」
俺は前に出る。3匹のゴブリンがこちらへ向かってくる。
「3匹か」
昨日のウルフと同じくらいだ。俺は自分に【強化】をかける。
「【強化】」
身体が一気に軽くなる。
「来い!」
ゴブリンが棍棒を振り上げる。俺はその懐へ入り込んだ。
「遅い!」
拳を振る。
——ドゴッ!
「ギャッ!」
ゴブリンが吹き飛んだ。
「次!」
2匹目が襲いかかってくる。俺は攻撃を避け、そのまま蹴り飛ばす。
——ドンッ!
「ギャァ!」
木にぶつかり、そのまま動かなくなった。
「あと1匹!」
最後のゴブリンが逃げようとする。
「逃がすか!」
俺は地面を蹴った。一瞬で距離を詰める。
「よっと!」
拳を振る。
——ドゴォン!
最後のゴブリンも吹き飛んだ。
「終わったか」
俺は周囲を確認する。他に魔物はいない。
「ふぅ……」
俺は息を吐く。昨日よりも身体が軽かった。
「慣れてきたのかな」
最初は力加減が難しかった。でも、少しずつ扱えるようになってきている。
「す、凄……」
後ろから声が聞こえた。
「え?」
振り返る。さっき助けた少女が、俺を見ていた。腰まである長く赤い髪。綺麗な顔立ちをしていて、身につけている服も普通の冒険者とは少し違う。少女は驚いたような顔で、倒れているゴブリンを見る。
「ゴブリン3匹を……一瞬で?」
「まあ……そんなに強くなかったからな」
「いやいや、強いよ!」
「そうなのか?」
「ゴブリンって、普通なら3人くらいで戦う魔物だよ!? この私でもちょっときついのに! あなた……何者なの?」
「俺?」
少女がじっと俺を見る。
「ただの冒険者だよ」
「ただの冒険者があんなに強いの?」
何も言えない。確かに、普通ではないのかもしれない。
「それより怪我は?」
「え?」
「魔物に追われてたんだろ?」
「あっ」
少女が自分の腕を見る。小さな傷がいくつかある。
「これくらいなら平気」
「そうか」
俺はホッとする。
「それならよかった」
「あのー」
「ん?」
「助けてくれてありがとう」
少女は笑った。その笑顔を見て、俺は少しだけ戸惑う。
「ど、どういたしまして」
なんだか変な感じだ。昨日までは、誰かに必要とされることなんてなかった。でも今日は違う。目の前の少女は、俺に感謝している。
「それで、どうしてこんなところに?」
「私は――」
少女が口を開いた。その瞬間——。
「グルルル……!」
森の奥から、唸り声が聞こえた。俺はすぐに振り返る。
「まだいるのか」
茂みが揺れる。1匹、2匹。いや――。
「多すぎだろ!」
森の奥から、次々とゴブリンが姿を現す。その数は軽く20を超えている。
「う、嘘……」
少女の顔が青ざめる。
「こんな数……」
俺は拳を握る。さっきの3匹とは、わけが違う。
「下がってくれ」
「でも……!」
「大丈夫だ」
俺は前へ出る。目の前には、大量のゴブリン。その後ろには、ひときわ大きな影が見える。
「あれが親玉か?」
普通のゴブリンよりも一回り、いや二回り大きい。手には巨大な斧を持っている。俺は依頼書を思い出す。ゴブリンの群れ。そして、その群れを率いる上位種。
「なるほど」
見当がついた。
「依頼の本命はあいつってわけか」
大きなゴブリンが咆哮する。
「グォォォォ!」
ゴブリンたちが一斉に走り出した。
「さぁ来い!」
俺は地面を蹴った。次の瞬間。
——ドゴォン!
森の中に、大きな衝撃音が響き渡った。
「えっ……?」
少女は目を見開く。そして、俺の姿を見て呟いた。
「この人……本当にただの冒険者なの?」




