第42話 帰省③
俺たちは田舎に帰省していた。
「カイムー! 起きてー!」
「……」
「カイム〜!」
「……」
「起きないなら魔法使うよー?」
「脅迫するな」
俺は布団から顔を出した。
「朝から何だよ……」
「何だよじゃないよ!」
部屋の扉を開けたリゼットが、なぜか物凄く元気だった。
「村を探索する!」
「朝から?」
「朝だから!」
昨日は靴畑を耕し、意地の悪いトウモロコシと戦った。正直今日はゆっくりしたい。
「俺は寝る」
「ダメ」
「何で?」
「せっかく田舎に来たんだから!」
「昨日十分満喫しただろ」
「まだ靴とトウモロコシしか見てない!」
「普通の田舎なら十分見なくていいものなんだけどな」
俺が再び布団へ潜ろうとすると。
「【ファイアボール】」
「待て待て待て!」
俺は飛び起きた。
「朝から部屋を燃やす気か!?」
「起きた」
「脅しで起こすな!」
「成功したからヨシ!」
「よくない!」
俺は朝食を食べることになった。
「はい」
母さんが料理を置く。
「ありがと」
「今日は野菜も食べなさい」
「……」
皿を見る。大量の野菜。
「多くない?」
「普通よ」
「俺の皿だけ多い気がする」
「気のせい」
絶対嘘だ。
「リゼットちゃんも食べてね」
「はい!」
「お前は素直だな」
「野菜好きだから」
「何でそんなに差があるんだよ」
朝食を終える。
すると。
「カイム!」
家の外から声が聞こえた。
「ん?」
「いるか!」
「誰だ?」
扉を開ける。
「あ」
そこには村長がいた。
「どうしたんですか?」
「手伝え」
「また?」
「人手が足りん」
「俺、帰省中なんですけど」
「知ってる」
「だったら休ませてください」
「若者が休むな」
「横暴だ」
村長は俺を見る。そしてリゼットを見る。
「そっちの嬢ちゃんも来い」
「え?」
「嫌です」
リゼットが即答した。
「昨日働いたので今日は休みです」
「昨日30分しか働いてないだろ」
「心が疲れた」
「何があった」
「トウモロコシに叩かれました」
「確かに大変だったな」
「村長まで認めるな」
結局、俺たちは村長についていくことになった。
「それで」
歩きながら聞く。
「今日は何をするんです?」
「川の掃除だ」
「それならまあ」
「ただ」
村長が言う。
「川には気をつけろ」
「何でです?」
「最近、魚が生意気だ」
「…………」
俺は立ち止まった。
「帰ります」
「待て」
「昨日トウモロコシが生意気で、今日は魚が生意気なんですか?」
「そうだ」
「魚が何するの?」
リゼットが興味津々で聞く。
「釣り針を盗む」
「魚だからでは?」
「それだけじゃない」
村長が険しい顔をする。
「釣ったあと、釣り人の顔に水をかける」
「魚だろ?」
「そうだ」
「普通に暴れてるだけじゃないですか?」
「あと、たまに笑う」
「帰ります」
「何で!?」
俺たちは川へ到着した。村の近くを流れる小さな川。子供の頃はよくここで遊んだ。
「懐かしいな」
「カイムはここで遊んでたの?」
「ああ」
「泳げる?」
「泳げる」
「じゃあ勝負しよう」
「何の?」
「どっちが速く向こう岸まで行けるか」
「急だな」
「負けた方は夕飯の片付け!」
「別にいいけど」
「よし!」
リゼットが川を見る。
「……」
「どうした?」
「冷たそう」
「さっきまでの勢いは?」
「水着持ってきてないし」
「誰も水着なんて持ってきてない」
「じゃあやめよう」
「やめるの早いな」
俺たちは川辺の掃除を始める。
「ん?」
「これ」
リゼットが何かを持っていた。
「長靴?」
「まさか……」
さらに。
「カイム!」
今度は村長。
「何です?」
「靴が流れてきたぞ」
川を見る。上流から靴が1足流れてきている。俺たちは流れてきた靴を回収する。すると。
「おお」
村長が驚いた。
「これはいい革靴だ」
「何で喜んでるんですか」
「まだ使える」
「拾った靴を履くんですか?」
「洗えばいい」
「たくましいな」
——バシャッ!
「うわっ!?」
突然、俺の顔に水がかかった。
「……」
川を見る。
魚が跳ねた。
「…………」
「カイム」
「何だ」
「今の」
「ああ」
「魚?」
「多分」
——バシャッ!
「今度は私!?」
リゼットの顔にも水がかかる。
「…………」
リゼットが川を見る。
「おい」
魚は泳いでいく。
「待ちなさい」
「リゼット?」
「今、絶対わざとだった」
「魚に言ってもわからんだろ」
「わかるよ」
「何で」
「目がそう言ってた」
「魚の目で感情を読むな」
すると。
——バシャァン!
今度は大きな魚が跳ねた。
「……」
「……」
——バシャッ!
「またか!」
完全にわざとだった。
「カイム」
「何だ」
「こらしめよう」
「昨日と同じ流れだな」
「意地悪な魚には教育が必要」
「その教育方法が怖いんだよ」
リゼットが杖を取り出す。
「【ファイア――】」
「待て!」
俺は慌てて止めた。
「魚を焼くな!」
「焼かないよ!」
「今ファイアって言っただろ!」
「威嚇!」
「魚に火魔法で威嚇するな!」
「じゃあどうする?」
「普通に掃除しろ」
「むー」
不満そうだ。
すると。
村長が笑った。
「いいんじゃないか?」
「何がです?」
「少しくらい懲らしめても」
「村長まで!?」
「最近あいつら調子に乗ってるからな」
「よし」
「カイムもやるよね?」
「やらない」
「【強化】」
「ほら!」
「何がほらだ」
「カイムなら川に入って捕まえられるよ!」
「普通に危ないだろ」
「大丈夫!」
「お前の大丈夫は信用できない」
その瞬間。
——バシャァン!
大きな魚が跳ねる。
——ペチッ。
「…………」
魚が当たった。
「…………」
リゼットが黙る。
「カイム」
「何だ」
「やる?」
「ああ」
俺は川へ入った。
「全員捕まえる」
「頑張って!」
「止めろよ!」
無駄に高い反射神経。
「いた!」
——バシャッ!
「逃げた!」
「そっち!」
「わかってる!」
リゼットが川岸から指示を出す。何故か村の子供たちも集まってきた。
「カイム兄ちゃん頑張れー!」
「負けるなー!」
「何で応援されてるんだ、俺」
10分後。
「……」
俺の手には大きな魚。
「捕まえた」
「凄い!」
リゼットが拍手する。
「カイムの勝ち!」
村長が頷く。
「これでしばらく大人しくなるだろう。今日は魚料理だな」
「結局食べるんですか」
「美味しくいただく」
昨日と同じだ。意地悪なものは最終的に食べられる。
夕方、俺たちは家へ戻った。
「ただいま」
「おかえり」
母さんが俺を見る。
「……何でびしょ濡れなの?」
「魚と戦った」
「そう」
リゼットが口を挟む。
「カイム、魚に負けそうだった」
「負けてない」
「最初は水をかけられてた」
「途中から本気出した」
「大人気ない」
「うるさい」
その日の夕飯は昨日収穫したトウモロコシ。そして今日捕まえた魚が並んだ。
「いただきます」
俺は魚を見る。
「…………」
「どうした?」
「いや」
「食べなさい」
「食べるよ」
昨日まで川で俺に水をかけていた魚が今は皿の上にいる。
「人生ってわからないな」
「魚生だよ」
「リゼット」
「何?」
「上手くないぞ」
「えー」
俺は家の外へ出た。
「綺麗だな」
「でしょ?」
「!」
隣を見るとリゼットがいた。
「びっくりした」
「そんなに?」
「いつからいた?」
「今来た」
「そうか」
リゼットも空を見る。
「田舎っていいね」
「ああ」
「昨日は靴畑で」
「うん」
「今日は魚と戦った」
「うん」
リゼットが笑う。
「でも」
「?」
「カイムがここで育ったんだなーって思うと、何か面白い」
「どういう意味だ」
「何となく」
「帰ってくるのも悪くないな」
「うん」
リゼットが頷く。
「また来ようよ」
「そうだな」
次はもっとゆっくり。
「でも靴畑はもういい」
「えー」
「トウモロコシも」
「えー」
「魚とも戦いたくない」
「つまんない」
「普通の感覚だ」
翌朝。
「カイム!」
「ん?」
村長が家へ飛び込んできた。
「大変だ!」
「今度は何ですか」
「畑から靴が逃げた!」
「…………」
俺は布団へ潜った。
「寝る」
「カイム!?」
まだ遠かった。




