第40話 帰省①
俺たちは田舎に帰省していた。
「どうしたの?」
「いや」
俺は目の前に広がる景色を見る。
「本当に帰ってきたんだなって」
王都から馬車で数日。俺の故郷である小さな村へ到着した。
「ここがカイムの故郷かー」
リゼットが周囲を見回す。
「思ってたより田舎だね」
「失礼だな」
「でも空気が美味しい!」
「それはそうだな」
俺はこの場所で育った。
「カイム兄ちゃん!」
「ん?」
後ろから声が聞こえた。
振り返る。
「あ」
「久しぶり!」
小さな女の子が走ってくる。
「本当にカイム兄ちゃんだ!」
「久しぶりだな、ミナ」
「いつ帰ってきたの!?」
「今さっき」
「冒険者になってから全然帰ってこなかったじゃん!」
「そんなことないだろ」
「2年ぶり!」
「……そんなに経ってたか?」
自分でも驚く。王都で冒険者を始めていつの間にか。そんなに時間が経っていたらしい。
「カイム兄ちゃん!」
ミナが俺の隣を見る。
「この人誰?」
「ん?」
リゼットのことか。
「俺の仲間」
「仲間?」
「リゼットだよー」
リゼットが笑顔で手を振る。
「魔法使い!」
「えっ!?」
ミナが目を輝かせる。
「魔法使えるの!?」
「使えるよー」
「見たい!」
「え?」
「見せて!」
「今?」
「今!」
ミナがリゼットの手を掴む。
「え、ちょっと」
「早く!」
「カイムー!」
リゼットが俺を見る。
「助けてー!」
「頑張れ」
「見捨てた!?」
そのままリゼットはミナに連れていかれた。
「……」
まあ楽しそうだからいいか。
「カイムじゃないか」
「!」
今度は別の声。
振り返る。
「村長」
「久しぶりだな」
白い髭を生やした老人。
この村の村長だ。
「いつ以来だ?」
「2年ぶりらしいです」
「らしいって何だ」
「俺も忘れてました」
「相変わらずだな」
村長が笑う。
「Sランク冒険者になったと聞いたぞ」
「……まあ」
今はもうSランクパーティではない。正確には俺自身のランクも変わっているわけではない。
「村長、俺」
「ん?」
「Sランクパーティから追放されました」
「は?」
村長が固まる。
「何?」
「クビになりました」
「何で!?」
「色々ありまして」
「色々で済ませるな」
「でも今は別のパーティを組んでます」
「そうなのか?」
「はい」
俺はミナたちのいる方向を見る。
「リゼットっていう魔法使いと」
「さっきの娘か」
「そうです」
「……」
村長は少しだけ笑った。
「なら、心配はいらんようだな」
「何でですか?」
「顔が前より明るい」
「そうですか?」
「ああ」
昔の俺だったら追放されたことを引きずっていたかもしれない。今でも忘れたわけじゃない。でも前を向けている。
「そうかもしれません」
「まあいい」
村長が俺の肩を叩く。
「帰ってきたなら、家に顔を出せ」
「あ」
忘れてた。
「家」
「忘れるな」
「すみません」
俺は村長と別れ、村の奥へ歩く。そこに俺の家がある。
「…………」
懐かしい。木造の小さな家。昔と何も変わっていない。俺は扉の前に立つ。
「ただいま」
扉を開けた。
「誰だ?」
奥から声が聞こえる。
「俺」
「俺じゃわからん!」
「カイムです」
すると奥から1人の女性が出てきた。
「……」
「……」
少しの沈黙。そして。
「カイム!?」
「ただいま」
「お前!」
母親が近づいてくる。
「何で急に帰ってくるの!?」
「帰省って普通、急にするもんじゃない?」
「連絡くらいしなさい!」
「すみません」
「本当にもう!」
怒っている。でも少し泣きそうだった。
「心配したんだからね」
「……ごめん」
「冒険者になってから、全然帰ってこないし!」
「忙しくて」
「手紙くらい書けるでしょ!」
「書こうと思ってた」
「思ってただけじゃない!」
その通りです。
「まあ」
母さんはため息を吐く。
「帰ってきたならいいわ」
「ただいま」
「おかえり」
久しぶりに聞いた。
その言葉が。
少しだけ嬉しかった。
「そうだ」
母さんが俺を見る。
「お客さんは?」
「お客さん?」
「外にいる女の子」
「……?」
外を見る。
「あ」
リゼットだった。
「何してるんだ?」
「え?」
リゼットが手を振る。
「ミナちゃんたちに魔法見せてた!」
「何で外にいるんだよ」
「家族水入らずかなーって」
「別に入ってこいよ」
「いいの?」
「ああ」
リゼットが家に入る。
「初めまして!」
「リゼット・アークライトです!」
母さんがリゼットを見る。
「……」
「?」
「カイム」
「何?」
「紹介して」
「さっきしただろ」
「ちゃんと」
「仲間」
「それだけ?」
「それだけ」
母さんが俺を見る。リゼットを見る。また俺を見る。
「……」
「何だよ」
「そう」
「何だよ」
「何でもないわ」
絶対何か思ってる。
「カイムのお母さん?」
リゼットが聞く。
「そうよ」
「初めまして!」
「こちらこそ」
母さんが笑う。
「カイムがお世話になってます」
「いえいえ!」
「何も世話されてません」
「カイムは黙ってなさい」
「はい」
何故だ。
「それで」
母さんがリゼットを見る。
「カイムとはどういう関係?」
「仲間!」
「そう」
「そうです!」
「仲間」
「はい!」
「……」
何だ。何で2人とも俺を見る。
「何?」
「何でもない」
「何でもないよー」
怪しい。その日の夜。母さんが久しぶりに料理を作ってくれた。
「うまい」
「もっと食べなさい」
「食べてる」
「細くなったんじゃない?」
「変わってないと思うけど」
「王都ではちゃんと食べてるの?」
「食べてるよ」
「野菜は?」
「……」
「食べてないのね」
「肉は食べてる」
「野菜も食べなさい」
「はい」
「カイムは昔から野菜嫌いだったの?」
リゼットが聞く。
「普通に食べてた」
「嘘よ」
「母さん」
「人参を見るだけで泣いてた」
「何年前の話だよ!」
「可愛かったわよ」
「やめろ!」
リゼットが笑っている。
「カイム、野菜食べられないの?」
「食べられる!」
「じゃあこれ食べて」
リゼットが人参を俺の皿に乗せる。
「……」
「ほら」
「お前も食べろ」
「私は好きだもん」
「ずるい」
「何が?」
結局人参は食べた。
「食べられるじゃん」
「だから言っただろ」
「昔は泣いてたのにねぇ」
「母さん!」
その日の夜。俺は自分の部屋へ戻った。
「……懐かしいな」
昔使っていた机。ベッド。棚。ほとんど変わっていない。
「ん?」
棚の上に1冊の古い本があった。
「これ」
見覚えがある。祖父の本だが、正確には違う。子供の頃。祖父が俺に読んでくれた本だ。
「…………」
手に取ると本の間から何かが落ちた。
「紙?」
拾い上げる。
『カイムがこの村へ戻ったとき、この紙を見つけたなら』
「……!」
祖父の字だった。
『一度、家の裏にある森へ行け』
「何で?」
俺は紙を見る。
『そこに、お前が忘れているものがある』
「忘れているもの?」
何のことだ。
——コンコン。
「カイムー?」
「リゼット?」
「入っていい?」
「どうぞ」
扉が開く。
「どうした?」
「寝る前に挨拶」
「何だそれ」
リゼットが部屋へ入る。
「……ん?」
俺の手にある紙を見る。
「何それ?」
「爺ちゃんからの手紙らしい」
「えっ!?」
リゼットが飛びつく。
「見せて!」
「近い」
「気にしない!」
「俺は気にする」
リゼットが紙を読む。
「家の裏の森……」
「また森か」
「行こう」
「今から?」
「今から!」
「夜だぞ」
「だから?」
「危ないだろ」
「カイムがいるから大丈夫!」
「その信頼の仕方おかしくない?」
「【強化】!」
「俺にかけるな!」
「ほら!」
「何がほらだ!」
リゼットは笑っている。
「明日行こうよ。決まり!」
リゼットが笑う。
「楽しみだね!」
「お前は何でも楽しむな」
「人生楽しい方がいいでしょ?」
「それはそうだな」
翌日俺たちは故郷の森へ向かうことになった。




