第39話 準備
翌朝。
「カイムー!」
「何だよ」
「起きてー!」
「起きてる」
「本当にー?」
「起きてるって」
俺は布団の中で答える。
——ガチャ。
「おはよー!」
「入ってくるな!」
リゼットが普通に部屋へ入ってきた。
「何で!?」
「何でじゃない!」
俺は飛び起きる。
「普通、人の部屋に入ってくるか?」
「鍵開いてたし」
「ノックしろ!」
「したよ?」
「聞いてないぞ」
「小さくした」
「意味ないだろ!」
朝から何なんだ。
「ほら!」
リゼットが俺へ紙を差し出す。
「買い物行くよ!」
「買い物?」
「北へ行く準備!」
「ああ」
そういえば今日から準備する予定だった。
「でもまだ朝だぞ」
「朝だから行くんだよ!」
「昼でもいいだろ」
「朝の方が1日を有効活用できる!」
「珍しく正論」
「珍しくって何!?」
俺たちは朝食を済ませると、王都の街へ向かった。
「まずは食料!」
「次に寝袋!」
「あと水!」
「それから?」
「お菓子!」
「いらない」
「いる!」
「何で?」
「冒険には甘いものが必要なの!」
「初めて聞いた」
「私が今決めた!」
「適当すぎるだろ」
市場へ到着する。朝から人が多い。
「よし」
リゼットが腕をまくる。
「買うよ!」
「何を?」
「全部!」
「破産するぞ」
最初に向かったのは食料品店だった。
「パン20個!」
「多くない?」
「北まで遠いんでしょ?」
「10日以上かかるとは聞いた」
「じゃあ必要だよ!」
「毎日パン2個食う計算か?」
「足りない?」
「食うな」
リゼットは店の商品を見回す。
「干し肉!」
「それは必要だな」
「果物!」
「日持ちしないだろ」
「お菓子!」
「さっきからそればっかだな」
「チョコ!」
「この世界にチョコあるんだ」
「知らなかったの!?」
「いや、知らん」
「人生損してるよ」
「大げさだな」
結局、パン、干し肉、水、保存食。必要なものを買った。
「重っ……」
俺は荷物を持つ。
「カイム、頑張って!」
「お前も持て」
「私は魔法使いだから」
「関係ない」
「体力ないの」
「昨日岩山消し飛ばしてただろ」
「魔力と体力は別!」
「便利な設定だな」
「魔法使いを何だと思ってるの!?」
「歩く兵器」
「正解!」
「正解なのか」
次に俺たちは武器屋へ向かった。
「カイム、剣買わないの?」
「俺、剣苦手だし」
「でも持ってた方がいいんじゃない?」
「……まあ」
確かにいつまでも拳だけというのもどうなんだろう。
「見てみるか」
店の中には様々な剣が並んでいる。
「おお」
「カイム!」
リゼットが1本の剣を持ってくる。
「これどう!?」
派手だった。異常に派手だった。金色で宝石付き。
「何でそれ選んだ?」
「格好いいから!」
「値段見た?」
「見てない!」
「金貨50枚」
「戻そっか」
「即決かよ」
「冒険者は実用性重視!」
「さっきまで格好よさ重視だっただろ」
俺は普通の剣を見る。軽いし握りやすい。
「これでいいか」
「地味」
「うるさい」
「もっと派手なのにしようよ」
「何でそんな派手にしたがるんだ」
「カイムは地味だから」
「失礼だな」
「黒髪、普通の服、普通の顔」
「急に悪口始めた?」
「褒めてるよ!」
「どこを?」
「親しみやすい!」
「フォロー下手か」
結局、普通の剣を買った。
「本当に使えるの?」
「使えないかもしれない」
「何で買ったの?」
「お前が買えって言ったからだろ!」
「そうだった」
そして次は防具屋。
「カイム!」
「今度は何だ」
「これ着てみて!」
リゼットが持ってきたのは全身鎧だった。
「嫌だ」
「何で!?」
「重そう」
「防御力高いよ!」
「俺、動けなくなるぞ」
「じゃあこれは?」
次に持ってきたのは真っ赤なマント。
「もっと嫌だ」
「何で!?」
「目立つ」
「格好いいのに!」
「お前のセンス信用できない」
「ひどい!」
その後も。
「これ!」
「嫌」
「じゃあこれ!」
「嫌」
「これは!?」
「絶対嫌」
リゼットとの戦いが続いた。最終的に普通の軽い防具を購入した。
「つまんない」
「防具に面白さを求めるな」
「でも冒険者っぽさが」
「冒険者だからいいだろ」
「何か違う」
「何が違うんだよ」
買い物を終える頃には昼になっていた。
「疲れたー!」
「お前ほとんど何も持ってないだろ」
「精神的に疲れた」
「何と戦った?」
「カイムのセンス」
「俺は何もしてない」
俺たちは適当な店に入った。
「何食べる?」
「肉!」
「即答」
「冒険者だから!」
注文した料理を待つ。
「そういえば」
リゼットが俺を見る。
「北って寒いんだよね?」
「多分」
「服買わなきゃ」
「確かに」
「カイムは?」
「今のでいいだろ」
「寒いよ?」
「【強化】で何とかならないか?」
「ならないと思う」
「そうか」
「試したことないけど」
「あるの?」
「わからない」
「どっちだよ」
料理が運ばれてくる。
「いただきます!」
「いただきます」
リゼットは肉を食べ始めた。
「うまっ!」
「そんなに?」
「カイムも食べなよ」
「食べてる」
「もっと早く!」
「競争じゃない」
リゼットが袋を持ってくる。
「詰めるよ!」
「はいはい」
俺たちは荷物を整理する。食料、水、寝袋、着替え。
「これでいいか」
「うん」
「終わったな」
「終わったね」
「じゃあ寝るか」
「まだ夕方だよ?」
「疲れた」
「早いなぁ」
そのときリゼットが何かを取り出した。
「そういえば」
「何だ?」
「お菓子」
「買ってたのか」
「もちろん」
「何個?」
「30個」
「買いすぎ」
「10日以上あるんだから足りないよ!」
「1日3個食う気か?」
「朝昼夜!」
「毎食後に食うな!」
リゼットは袋を開ける。
「はい」
俺に1個渡してくる。
「……」
「食べないの?」
「食べる」
一口。
「どう?」
「うまい」
「でしょー!」
リゼットが笑う。何だかんだこういう時間も悪くない。今だけは何も考えずにいられる。
「リゼット」
「ん?」
「俺の荷物」
「何?」
「何でお菓子30個入ってる?」
「非常食!」
「パン減らしてるぞ」
「お菓子の方が大事だから!」
「何でだよ!」
北への旅へ……不安しかない。




