第38話 賢者②
遺跡を出る頃には外はすっかり暗くなっていた。
「疲れたな……」
「私はまだ元気だけど?」
「魔力使いまくってたのに?」
「カイムのバフがあるからねー」
俺たちは森の中を歩いていた。手には祖父が残した本。表紙には俺の名前が書かれている。何度見ても信じられない。
「本当に生きてるのかな」
俺は呟く。
「生きてるんじゃない?」
「そんな簡単に言うなよ」
「だって本に書いてあったじゃん」
「100年以上前に書かれた可能性もある」
「それは……」
リゼットが少し考える。
「確かに」
「だろ?」
祖父が本を書いたのはいつなのか。わからない。少なくとも俺の名前が書かれていた。
「爺ちゃんが俺のことを知ってたのは間違いない。問題は、いつ書いたかだな」
俺は本を開く。遺跡の中ではほとんど読めなかった。今なら少し落ち着いて確認できる。
「他には何か書いてある?」
「見てみる」
ページをめくる。最初の方には祖父らしき人物の文章が書かれていた。
『カイムへ。この本を見つけたということは、お前はある程度成長したのだろう』
「……」
「どうしたの?」
「何か爺ちゃんっぽい」
『まず、お前に謝らなければならない』
「謝る?」
俺は続きを読む。
『私はお前を危険から遠ざけるため、多くのことを隠した』
「何を隠したんだろ」
リゼットが横から覗き込む。
『お前が持つ力についても、私は何も教えなかった』
「バフのことか?」
『【強化】。それがお前のスキルとして現れたなら、まだ間に合ったらしい。お前の力は本来、人を強くするだけのものではない。北へ来い』
次のページには地図が描かれていた。
「地図?」
リゼットが身を乗り出す。
「見せて!」
「おう」
王国全体の地図。北部に大きな印がついている。
「ここ」
リゼットが指差す。
「知ってる?」
「うーん」
俺は地図を見る。名前が書かれている。
【グランディア山脈】
「聞いたことある」
「北の果てにある山脈だね」
「遠いのか?」
「かなり」
リゼットが地図を見ながら答える。
「ここから馬車でも10日以上かかると思う」
「10日……」
結構遠い。
「その奥に何かあるの?」
「ある」
リゼットの顔が少し真剣になる。
「立ち入り禁止区域」
「何で?」
「昔から危険な魔物が多いって言われてるの」
「魔物だけ?」
「それだけじゃない」
リゼットは本を見る。
「昔、北部には古代文明の遺跡が多くあったって話」
続きを読む。
『グランディア山脈の奥。そこで待っている』
生きているのか。
「行く?」
リゼットが聞いてくる。
「……」
答えは決まっている。
「爺ちゃんに会えるかもしれない」
行かない理由がない。
「聞きたいことも山ほどある」
森の奥から誰かの声が聞こえた。
「助けて……!」
女性の声だった。俺たちは声のする方向へ走る。木々を抜けると。
「ひっ……!」
1台の馬車があった。馬車の周囲には複数の魔物。ゴブリンよりも大きい灰色の皮膚、手には剣。
「ホブゴブリンだ」
「数は?」
「5……いや6!」
俺は前へ出る。
「【強化】!」
身体能力を強化する。ホブゴブリンがこちらに気づいた。
「グギャアア!」
「来たぞ!」
1体が剣を振り下ろす。俺は避ける。そして拳を叩き込んだ。
「グギャッ!?」
ホブゴブリンが吹き飛ぶ。
「よし」
俺はリゼットへ手を向ける。
「【強化】!」
淡い光がリゼットを包む。
「【強化】!」
さらに重ねる。リゼットが杖を振る。
「【フレイムランス】!」
炎の槍が放たれる。
——ズドォォン!
ホブゴブリン2体がまとめて吹き飛んだ。
「あと3!」
俺は地面を蹴り、ホブゴブリンの懐へ入る。
——ドゴォン!
——バキッ!
残った魔物たちを倒していく。最後の1体になった。
「グギャアアッ!」
「遅い」
俺は拳を振り抜く。
——ドゴォン!
魔物が地面を転がった。
「お疲れー!」
リゼットが手を振る。俺たちは馬車へ近づく。
「大丈夫ですか?」
「あ、ありがとうございます」
馬車の扉が開く。中から1人の女性が出てきた。
「助かりました」
女性は深く頭を下げた。
「冒険者の方ですか?」
「まあ、そんなところです」
俺たちは先を急いだ。




