第3話 異変②
「何でだ?」
アルトは、自分の剣を見つめていた。目の前には、倒したばかりの魔物が転がっている。ただのゴブリンだ。Dランク程度の魔物。今までなら、アルトの一撃で簡単に倒せる相手だった……はずなのに。
「硬すぎるだろ!」
アルトは舌打ちする。
「何回斬れば倒れるんだよ……!」
「私の魔法もなんだかおかしいわ」
リーナが杖を見ながら呟いた。
「威力が出ないの」
「私もです」
セシルも困ったような顔をしている。
「いつもならこの程度の傷はすぐ治せるはずなのに……」
「…………」
3人の間に嫌な沈黙が流れた。今日は朝からおかしかった。最初の魔物からそうだった。アルトの攻撃が妙に弱い。リーナの魔法も威力が出ない。セシルの回復魔法もいつもより効果が低い。それでも最初は、誰も気にしていなかった。少し調子が悪いだけ。たまたま調子が悪いだけ。そう思っていた。だが――。
「来るぞ!」
アルトが叫ぶ。森の奥から、複数の魔物が姿を現した。
「ゴブリン……いや」
リーナが目を細める。
「ホブゴブリンがいる!」
「数は?」
「5……いや、8!」
「チッ!」
アルトが剣を構える。
「リーナ、援護!」
「わかってる!」
リーナが杖を掲げる。
「【ファイアボール】!」
巨大な炎の球が飛んでいく。
——ドォン!
「やったか!?」
炎が消える。だが――。
「嘘……でしょ!?」
ホブゴブリンは立っていて、多少の傷がある。それだけだ。
「私の魔法が……効いてない?」
「リーナ!」
アルトが飛び出す。ホブゴブリンが棍棒を振り下ろす。
——ガキィン!
「ぐっ!」
アルトが剣で受け止める。腕が震える。
「重たっ……!」
今までなら、こんな攻撃は簡単に受け止められた。はずだった。
「アルトさん!」
セシルが回復魔法を使う。
「【ヒール】!」
光がアルトを包む。
「……っ」
傷が治っていく。だが、いつもより明らかに遅い。
「セシル! もっと早く!」
「やっています!」
アルトが必死に攻撃を受け止める。リーナも魔法を放つ。それでも魔物たちは倒れない。
「何でだよ!!」
アルトは叫んだ。
「俺たちはSランクだろ!?」
その言葉に誰も答えられなかった。しばらくして、なんとか魔物を退けることはできた。だが——。
「はぁ……はぁ……」
3人とも息を切らしていた。
「ありえない……」
リーナが呟く。
「こんな魔物に、私たちがここまで苦戦するなんて」
アルトは腹立たしそうに自分の剣を見ている。
「何で前より弱くなってるんだ?」
「アルト……」
「昨日まではこんなことなかった」
アルトがそう言った瞬間、3人の動きが止まった。
「昨日……」
リーナが呟く。
「昨日は……」
セシルも何かに気づいたように目を見開く。
「カイムさんがいました」
「…………」
その名前を聞いた瞬間、アルトは目を見開いた。昨日——アルトたちはカイムを追放した。そして今日。アルトたちは今までなら簡単に倒せた魔物に苦戦している。
「ぐ、偶然だろ」
アルトが言う。
「そうよ」
リーナも続ける。
「カイムがいなくなったから弱くなったなんて、そんなこと――」
「でも」
セシルが口を開く。
「カイムさんがいるときは、こんなこと……ありませんでした」
アルトは思い返す。自分たちが強くなったのはいつからだったかと。
FランクからEランクへ上がった頃。Dランクの魔物を倒せるようになった頃。Aランクの魔物を倒せるようになった頃。そして――Sランクになった頃。全部——カイムがいた頃だ。
「そんなはずは……っ」
アルトは拳を握りしめた。
「いや……」
それでも認めたくなかった。カイムは弱い。剣も使えない。攻撃魔法も使えない。だから追放した。——が。
「まさか……?」
アルトの脳裏に、カイムの言葉が蘇る。
――俺のバフがあったから。
アルトは俯き、黙り込んだ。そしてため息をついた。
「帰るぞ」
アルトが立ち上がる。
「もう依頼どころじゃない」
「そ、そう」
「はい……」
3人は急いで王都へ戻った。ギルドへ着く頃には全員ボロボロだった。
その様子を見た者たちはざわめく。
「あれって【星の剣】じゃないか? Sランクパーティの」
「全員ボロボロじゃないか」
「Sランクパーティがあんなにボロボロになるなんて、どれだけ強い魔物が出たのかしら」
アルトたちは何も言えなかった。
「クソっ! こんなはずじゃ……!」
「今まではこんなことなかったのに……!」
「どうしてこんなことに……」
以前との明白な違い。それは、メンバーが1人いなくなったということ。
「本当にあいつのおかげだったのか? あいつのバフのおかげで俺たちはSランクまで上がれたというのか?」
「嘘よ……そんなの嘘よ」
「でも……カイムさんがいなくなった今、私たちは……」
明確に弱くなった。カイムがいなくなった【星の剣】に以前のような強さはない。もはやSランクではない。Aランクにしても弱いし、下手すればBランク以下、はたまたそれ以下かもしれない。アルトもリーナもセシルも、決して誰も口にはしないが、3人とも薄々気がついていた。




