第27話 祖父②
思わず耳を疑った。
「伝説の?」
「賢者」
「誰が?」
「あなたのおじいちゃん」
「…………」
俺はしばらく黙る。
「いやいや」
思わず笑った。
「何だそれ」
「本当だよ!」
「嘘だろ?」
「嘘じゃない!」
リゼットが鞄から何かを取り出した。それは分厚い本だった。
「これ見て!」
ページを開く。
「魔法学院で使ってた魔法史の本!」
「そんな大層なものを普段から持ち歩いてるのか」
「今はそこじゃない!」
リゼットが本を俺の前へ置く。そこには1人の老人の絵が描かれていた。長い白髪、髭、大きな杖。
「似てる」
「似てる?」
「いや」
俺は絵を指差す。
「これ、じいちゃんだ」
「だからそう言ってるの!」
リゼットが叫ぶ。
「オルディス・レイヴン! 100年以上前から存在が確認されている大魔法使い! 魔法研究者であり、複数の魔法体系を作り上げた人物! 古代魔法の研究でも有名! 人々からは【伝説の賢者】って呼ばれてるの!」
俺は本とリゼットを交互に見る。
「じいちゃん、そんな凄かったのか?」
「知らなかったの!?」
「普通のじいちゃんだったから」
「普通のじいちゃんは魔法史の教科書に載ってない!」
フィオナが本を覗き込む。
「オルディス・レイヴン……」
「知ってたのか?」
「名前くらいは」
フィオナが俺を見る。
「でも、本人を知っている人がいるなんて思わなかった」
フィオナは少し迷う。
「オルディス・レイヴンは、今どこにいるのかわからないの」
「は?」
「何十年も前から姿を消してる」
「……」
俺は眉をひそめる。
「何十年も?」
「ええ」
「でも俺が小さい頃は普通にいたぞ」
「え?」
「村に住んでたし、俺に魔法を教えてた」
「……」
リゼットの口が開いたまま閉じない。
「待って」
フィオナが言う。
「あなた、今いくつ?」
「18」
「つまり、少なくとも十数年前までは生きていた?」
「生きてたと思う」
「思うって……」
「いや、普通に元気だったし」
エレナが俺を見る。
「今は?」
「わからない。もう長らく会ってないからな」
エレナが少しだけ困ったような顔をする。
「おじいちゃんを探したことはないの?」
「ないな」
「どうして?」
「別に」
俺はパンを食べる。
「俺が村を出て冒険者になった頃、じいちゃんはもうどこかに行ってたから」
「どこへ?」
「さあ」
「聞かなかったの?」
「そのうち帰ってくるだろって思ってた」
「帰ってきた?」
「帰ってきてないけど」
リゼットが頭を抱える。
「何それ……色々とおかしいよ。伝説の賢者の孫なのに本人は何も知らないし! しかも、その力」
リゼットが俺の手を見る。
「カイムのバフ……オルディス・レイヴンが教えたんだよね? 本当にそうなら」
リゼットの表情が変わった。
「もっと色々知ってるかもしれない」
「じいちゃんが?」
「そう!」
リゼットが身を乗り出す。
「カイムのバフについても!」
俺は祖父から【強化】を教わったが、詳しい説明なんて聞いたことがない。ただ——。
『魔法は使い方次第じゃ』
祖父は昔、そう言っていた。
『自分で考えろ。魔法に答えを求めるな』
意味がわからなかった。だから気にしていなかった。
「もしかして……じいちゃんなら、俺のバフについて知ってるかもしれない」
「絶対知ってるよ!」
リゼットが即答する。俺は少しだけ、昔のことを思い出した。祖父は俺に魔法を教えた。でも、俺が攻撃魔法を使えないとわかったとき、祖父は何故か怒らなかった。
『そうかそうか』
むしろ嬉しそうに笑っていた。
『ならば、お前には別の道がある』
あのときは意味がわからなかった。何で攻撃魔法が使えない俺を見て、嬉しそうにしていたのか。今は少しだけ気になる。
「探してみるか」
「え?」
3人が俺を見る。
「じいちゃんを」
俺は言う。
「オルディス・レイヴンを探す」
「……!」
リゼットの目が輝いた。
「本当に!?」
「ああ」
「やった!」
「俺のバフについて聞きたいこともあるしな」
祖父が何を知っているのか。そして、何故俺に【強化】を教えたのか。
「でもどうやって探すの?」
「それは……」
何十年も姿を消している伝説の賢者。正直、手がかりなんてない。
「故郷に行ってみるか」
俺が育った村、祖父と暮らしていた家。もしかしたら何か残っているかもしれない。
「決まりだね!」
リゼットが立ち上がる。
「カイムのおじいちゃんを探しに行こう!」
「急だな」
「こういうのは早い方がいいの!」
フィオナが笑う。
「まあ、悪くないんじゃない?」
「フィオナも来るのか?」
「当然でしょ」
「私も行こう」
エレナが言う。
俺は3人を見る。じいちゃんを探す——それは俺1人の問題だった。しかし、いつの間にか、みんな来ることになっている。
「本当にいいのか?」
「何が?」
「俺の祖父を探すだけだぞ」
「いいじゃん。仲間なんだし」
俺は立ち上がった。
「じゃあ決まりだ」
故郷へ行き、祖父を探す。伝説の賢者——オルディス・レイヴン。俺にとってはただのじいちゃんだった男。俺は何も知らない。じいちゃんが何をしてきたのか。何故俺にバフを教えたのか。そして、今どこにいるのか。
「面白くなってきたね!」
リゼットが笑う。
「伝説の賢者探しだよ!」
王都を離れるなら数日の旅になるかもしれない。依頼も確認する必要がある。だが、やることは決まった。




