第26話 祖父①
「カイムー! 起きてるー?」
部屋の外からリゼットの声が聞こえる。
「起きてるよ……」
正確には起きていない。俺は布団の中で目を閉じたまま答えた。
「じゃあ開けるねー!」
「待て待て待て!」
慌てて起き上がる。
「何で入ってくる前提なんだよ!」
「起きてるって言ったから」
「起きてるけど!」
「じゃあ問題ないね」
「あるだろ!」
扉が開く。
「おはよー!」
「はぁ……おはよう」
朝から元気だな。
リゼットは俺の部屋へ入ってくると、勝手に椅子へ座った。
「今日どうする?」
「どうするって?」
「依頼!」
「朝からそれかよ」
俺はベッドから降りる。
「とりあえず飯を食う」
「そのあと依頼ね」
「まだ決めてない」
「依頼ね」
「人の話聞いてる?」
俺たちは食堂へ向かった。既にフィオナとエレナが席についている。
「おはよう」
フィオナが俺を見る。
「おはよう」
「遅い」
「まだ朝だろ」
「もう結構経ってるんだけど。リゼットなんて、朝から3回あなたの部屋に行こうとしてたわ」
「3回も?」
俺はリゼットを見る。
「1回しか来てないだろ」
「最初の2回はエレナに止められた」
「何してんだよ」
「だって起きないんだもん」
俺は椅子へ座る。朝食を頼むと、少しして料理が運ばれてきた。
「それで」
フィオナがパンを食べながら言う。
「今日はどうするの?」
「まだ決めてない」
「依頼受けよ!」
リゼットがすぐに言う。
「だから早いって」
「いいじゃん。せっかく4人でパーティになったんだし」
「まあ、それはそうだけど」
俺は少し考える。昨日はブラックファングと戦った。流石に今日すぐ強い魔物と戦いたいわけじゃない。
「簡単な依頼でも受けるか?」
「えぇ、簡単なやつ?」
リゼットが少し残念そうな顔をする。
「毎日強い奴と戦ってたら死ぬ」
「でもカイム強いし」
「俺はバッファーなんだけど」
「それより」
エレナが口を開いた。
「前から気になっていた。そのバフは——普通じゃない」
最初は少し能力を上げるだけのスキルだと思っていた。しかし、自分に使えば身体能力を大幅に強化できる。リゼットに使えば魔力の流れまで変わる。しかも、同じバフを重ねることができる。
「どうしてそんなスキルを使えるの?」
「どうしてって言われてもなぁ」
俺は少し考える。
「昔から使えたから」
「誰かに教わったの?」
「じいちゃんに教わったんだ」
何気なく答えた。
「じいちゃん?」
「俺の祖父だよ」
リゼットの動きが止まった。
「おじいちゃん?」
「そうだけど」
「カイムのおじいちゃんが教えたの?」
俺は昔のことを思い出す。小さい頃、祖父はよく俺に魔法を教えていた。炎を出す魔法、水を動かす魔法、簡単な回復魔法。そしてバフ。ただ、俺は攻撃魔法だけ、どうしても上手く使えなかった。
「じいちゃんは何でもできたからな」
「攻撃魔法も?」
「使える」
「回復魔法も?」
「勿論」
「結界魔法も?」
「当然」
「転移魔法も?」
「無論」
リゼットが俺を見る。
「ちょっと待って。カイムのおじいちゃん、何者?」
「普通のじいちゃんだけど」
「普通?」
「普通じゃない」
3人が同時に言った。
「何で?」
「何でも魔法が使える人間が普通なわけないでしょ!」
リゼットがテーブルを叩く。
「魔法には適性があるの! 誰でも全部の魔法が使えるわけじゃない!」
「でもじいちゃんは使えてたぞ」
「だからおかしいの!」
「おかしいって言われてもなぁ」
俺は困る。俺にとって祖父はただの祖父だ。少し変わっていて、酒が好きで、昔話をすると長くて。でも、魔法を教えるときだけは妙に厳しかった。
「名前は?」
フィオナが聞く。
「え?」
「あなたのおじいさんの名前」
俺は答える。
「オルディス・レイヴン」
——ガタンッ!
「えっ!?」
リゼットが勢いよく立ち上がった。
「何!?」
「今、何て言った!?」
「オルディス・レイヴン」
リゼットが固まる。フィオナも目を見開いていた。エレナまで驚いている。
「何だよ」
俺は3人を見る。
「何か知ってるのか?」
「知ってるも何も……」
リゼットがゆっくり座る。
「逆に知らないの?」
リゼットは真剣な顔をしていた。
「伝説の賢者だよ」
「は?」
一瞬、意味がわからなかった。




